近年、人工知能に関連する技術(AI 技術)の進展に伴い、資産運用の分野でもAI技術の活用が進んでいる。昨今拡大している環境・社会・ガバナンス(ESG)投資について見ると、企業のESGに係る取り組みをスコアや格付で評価する「ESG評価」の分野で、AI技術の活用が始まっている点が興味深い。具体的には、例えば、評価を行う際の情報ソースであるメディアニュースについて、ESG課題との関連性の判別や不祥事情報の抽出を実施する際、自然言語処理と呼ばれるテキスト分析の技術が活用されている。

 AI 技術を活用するESG 評価機関と伝統的なESG評価機関とを比較すると、①評価の担い手、②更新頻度、③主な情報ソース、についての違いがある。評価の担い手について、伝統的ESG評価機関では、データの判別・分析・評価等のプロセスにおいてアナリストが中心的役割を担うのに対して、AI技術を活用するESG評価機関では、データに基づき構築されたモデル等が中心となる。ESG 評価の更新頻度は、伝統的ESG評価機関が半年に1度又は年次であることが一般的であるのに対して、AI技術を活用するESG評価機関による評価の更新は、日次が一般的である。ESG評価の情報ソースは、伝統的ESG評価機関が企業による開示情報等が中心であるのに対して、AI技術を活用するESG 評価機関はメディアニュース等を積極的に取り入れている。こうした特徴を踏まえ、AI 技術を活用するESG 評価に対しては、より迅速な評価や、ESGに係るデータ収集の手間・負担の軽減についての期待が持たれている。AI 技術の活用は、企業のESGに関する慣行・行動について、通常すぐには入手・分析しにくいような情報を明らかにするとの見方もある。

 一方、AI 技術活用の課題としては、評価プロセスにおいてアナリスト等の関与が総じて少なく、主な情報ソースがメディアニュース等であることから、情報の信頼性や適切性をいかに確保するか、といった点が挙げられる。未だ黎明期にあるものの、ESG 分野におけるAI 技術の活用が、企業によるESGに係る取り組みの適切な把握につながり、ESG投資の健全かつ持続的な発展につながるのか注目されよう。

(野村資本市場研究所 富永 健司)

※野村週報 2022年4月18日号「資本市場の話題」より

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