10月22日、中国で一番重要な会議と言われる共産党大会が閉幕しました。習近平政権が異例とも言える3期目の突入、「台湾」に関してより踏み込んだ表現をとることなどが、注目の話題でした。今回は台湾問題や共同富裕、中国半導体、ゼロコロナなどの重要テーマについて、野村證券市場戦略リサーチ部の郭 穎さんに聞きました。

Q  「台湾」問題について、今回の工作報告は「武力(統一)を放棄する承諾を決して行わない、必要措置になるすべての選択肢を保留する」、「祖国の統一は実現できる、必ず実現しなければならない」と17年報告書に使われた「平和統一方針の堅持が必須」の表現からは大きく変化し、かなり踏み込んだ表現を取ったことが印象的ですが、何か狙いがあるのでしょうか。

A  台湾独立派、特に台湾民進党政権に対する強い牽制が主な狙いです。今回の共産党規程の改定でも「台湾独立勢力を断固反対し、食い止める」との文言が加えられており、台湾独立の断念と中国大陸との早期の平和統一交渉に応じさせるために圧力を掛けています。

 中国政府は22年8月に台湾問題に関する白書を公表しています。その中では「政治の分断を後世に残せない」との文言が注目されます。祖国統一の課題を習近平政権の間で解決する意欲があると解釈されます。

Q  「共同富裕(ともに豊かになる)」については、大会報告では「低収入者の収入を増加させ、中間層を拡大させ、所得分配機能を充実させ、富の蓄積メカニズムを作る」との表現がありました。今後は税・寄附制度など分配を重視した政策が打ち出されるのでしょうか。これらの政策は中国経済にどのような影響を与えるのでしょうか

A  富裕層に対する徴税の拡大、脱税調査の強化、企業に対しても社会寄付のインセンティブ付けといった制度改革が考えられます。先進国と比較して、中国の家計部門の所得に占める移転所得の比率が低いため、行政が税収調整を通じて低所得者層への給付を拡大する余地が大きいです。

 税制改革に関しては、不動産税、相続税の導入、消費税(物品税)の徴収範囲拡大、等の議論があります。特に不動産税について、21年に一部都市での実験的な導入が計画されていましたが、不動産市況の調整で一時的に中断されています。今後景気回復すればそれらの税制改革が再開すると考えられます。

 経済への影響は、中長期的に消費主導の経済構造変化にプラスです。ただし、短期的には富裕層による国外への資本逃避の加速要因になります。特にグローバルパンデミックが沈静化して人の移動がより自由になれば、その影響が表面化しやすいです。アジアの近隣国家は資本逃避の受け皿としてメリットを受けることも考えられます。

Q  ハイテク分野については、「ボトルネック・開発難点の突破」に重点を置き、「新型挙国体制を強化する」と踏み込んだ表現がありました。「ボトルネック」は具体的にどの分野を指しているのでしょうか。今後は具体的にどのような施策で強化されるのでしょうか。

A  最も重要な「ボトルネック」は半導体産業です。特にハイエンドの半導体の製造、半導体製造装置、半導体材料においては米国及びその同盟国がコア技術を握っています。米国は10月前半に中国に対する新しい半導体の輸出規制が発動されています。(1)米国の技術が使われたハイエンド半導体を生産する装置の中国への輸出、(2)スーパーコンピューター向け高性能半導体の対中国の輸出、(3)米国籍所持者による中国での半導体の設計・生産への関与、について米国から規制(米当局からの許可証の取得が義務付け)されるようになります。これによって中国のハイエンド半導体の国産化、高性能半導体が必要とされる応用産業(人工知能、自動運転、データセンター)の発展を制限しようとしています。その他に軍事産業、宇宙・航空も先進国から技術封鎖がされています。

 対策は主に(1)国家レベル科学研究所の充実、給与体制や人事体制の改革、(2)中国出身のハイテク分野の科学者に対して帰国優遇制度の整備、(3)半導体・ハイテク応用産業における国産代替、(4)ハイテク企業向けの税制優遇・補助金、資本市場へのアクセス支援、等の対策が挙げられます。

Q  中国は「ゼロコロナ政策」を堅持しています。今回の大会報告では、「ゼロコロナ政策を堅持したことで、人民の生命と安全を最大限守れました」と自画自賛しています。その一方、中国の航空会社は大会開催後、国際便の大幅増便の発表が相次いでいます。厳しい入出国制限を敷く「ゼロコロナ政策」の見通しを教えてください。

A  「ゼロコロナ」政策への自己評価はあくまで過去に対するものだと認識しています。この冬のコロナウィルスには毒性の強い変異株が現れなければ、今後ゼロコロナ政策の見直しの可能性がまだ大きいと思われます。既に党大会の人事に決着が付いたため、如何に足元の2-3%程度の低成長から抜け出して、ゼロコロナ政策で低下した求心力の向上を図ることが新政権にとって切実な問題です。23年に向けて、先進国は大幅な利上げを背景にリセッションに入ると予想され、外需の中国経済成長への寄与度もマイナスに転じる公算が大きいです。低成長が長期化すれば、失業問題による社会不安、家計部門の債務問題が一層表面化するリスクも高まっています。

 野村證券は23年3月全人代以降のウィズコロナへの政策転換をメインシナリオにしています。当面注目できるのは党大会後の初めての経済関連の重要会議である、中央経済工作会議です(通常は12月上旬に開催されます)。その会議前後にウィズコロナ政策転換への何らかの地ならしがあるかどうかが重要なチェックポイントになります。

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