日本銀行は2023年3月に2名の副総裁が、4月には総裁が任期満了を迎えます。市場参加者の間では、この日銀執行部の交代を契機に日銀の金融政策スタンスが転換するのではないかとの見方が強まっています。

この背景には、現在の金融政策が長期化することによる副作用への懸念が挙げられます。日銀は2022年12月の決定会合で、主要な金融政策を据え置いたうえで、10年国債利回りの許容変動幅を従来のゼロ%±0.25%ポイント程度から±0.5%ポイント程度へ拡大することを決定しました。これは市場機能の低下という副作用の緩和を意図した措置ですが、市場の一部には「金融引き締めスタンスへの転換につながるもの」との見方もあります。

ブルームバーグの調査によれば、次期日銀総裁の有力候補として、雨宮現副総裁や中曽前副総裁など、日銀出身者の名前が挙がっています。両氏はいずれも黒田総裁の下で現在の金融緩和策を推し進めてきた方々であることから、雨宮氏、中曽氏、いずれかが次期総裁に就任した場合でも、直ちに金融政策を見直す可能性は低く、当面は現行の政策を継承すると予想されます。現在有力候補として名前が挙がっている中では、中尾元財務官は金融政策の段階的な調整に前向きな見解を示しています。

ここで注目したいのは政権の意向です。日銀総裁人事は内閣が選出したうえで、国会の承認が必要です。このため日銀総裁候補の選出にあたっては、岸田首相の意向が色濃く反映されると推察されます。岸田政権は2022年10月に閣議決定した経済対策の目玉の一つに電気・ガス料金の負担緩和措置を組み入れました。ただし、これは家計支援策の一環であり、「金融政策を用いてインフレを抑制すべき」と言った論調は見受けられません。岸田政権が金融政策の見直しに積極的な人物を次期総裁候補に選出する可能性は低いと考えられます。このため、野村證券では2023年中は金融政策の据え置きを予想しています。

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)

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