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07/15 09:00
【特集】SNS型投資詐欺が急増 著名人かたる手口に警戒を「被害回復は困難」
※写真は全てイメージです。 「SNS型投資詐欺」という新たな投資詐欺が増加しています。主にSNSを通じて接触し、投資の名目で金銭をだまし取るという手口で、実在する著名人の名をかたるケースも発生しています。警視庁や国民生活センターに具体的な手口や予防策について取材しました。 SNS型投資詐欺は2023年から急増 警察庁報道発表資料「SNS型投資・ロマンス詐欺の被害発生状況等について」では、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺ともに2023年下半期の増加が顕著であり、2023年1~12月の認知件数は全国で2,271件、被害総額は277.9億円に上ると発表されています。発表の詳細については以下のとおりです。 同時に集計されたロマンス詐欺(外国人や海外居住者を名乗り、SNSなどを通じて恋愛感情や親近感を抱かせ、金銭等をだまし取る詐欺)を含め、被害者の年齢層は男性が50代~60代、女性は40代~50代が多い。1件あたりの平均被害額は1,000万円超で、被害額は500万円以下がもっとも多く、1億円を超える被害は26件。被疑者は国内の投資家や会社員、会社役員を名乗り、当初の接触ツールはFacebookやLINE、インスタグラムなどで、被害時の連絡ツールはLINEが88%と多い。警察庁は2024年3月、全国の都道府県警察に対し、捜査と抑止を含む総合的な体制を構築し、対策を強化するよう通達済み。 昨年は都内でも210件の被害が発生 警視庁によると、「都内でも多くのSNS型投資詐欺事件が発生しています。2023年のSNS型投資詐欺の認知件数は210件で被害額は約38億円。2024年も4月末現在で、昨年の被害額を上回る約48億円の被害が発生している」という回答でした。 警視庁によると、特に被害額が大きかった事案は以下のようなものでした。 「スマートフォンで著名な投資家のネットニュースを閲覧していたところ、その投資家のSNSアカウントを登録する画面が表示されたため、興味があり登録した。 すぐに挨拶のメッセージを送信したところ、『投資のテクニックを教える』との返信があり、SNS上の投資のコミュニティーに参加するよう促された。 コミュニティーにおいて、投資家や指南役に紹介された投資アプリをインストール、投資家を尊敬していたことや、アプリ上の画面で儲けが出ていたことから、投資名目や口座出金手数料名目の送金を繰り返した。投資家からもSNSのメッセージで数十億の利益がでたと言われ、さらに送金を続けたものの連絡が取れなくなり、騙されていることに気付いた。 約半年に渡り騙され続け、犯人側の口座への送金や現金を手渡しするなど、総額1億4,000万円の被害に遭った」 著名人の名をかたって勧誘 警視庁の担当者は、最近目立つSNS型投資詐欺の手口について、以下のように回答しました。 「近年、特に目立つ手口は、『本人の知らないところで、SNSの“投資グループ”を名乗るグループに勝手に参加させられた』『インターネット上で投資について検索し、著名人が『投資に興味のある方はSNSで繋がりましょう』などと宣伝する広告を見つけてクリックし、SNSで詐欺グループと友達登録してしまった』というもの。 その後、参加したSNSグループで著名人を騙った者や指南役が登場し、グループメッセージで『〇〇万円儲かった』などのやりとりがあり、高額な利益が出ると被害者が誤信させられます。同時に偽の投資アプリケーション(金、原油先物取引、仮想通貨、FXなど)のインストールを勧められ、アプリ上のチャートでは、あたかも利益が出ているような偽の表示が出たケースもあります。 被害者は、最初に少額の投資を実行し、アプリ上で儲けが出たことや、実際に利益が振り込まれたことで、犯行グループを信じ込みます。その後は高額の送金を繰り返しますが、出金をする前に連絡が取れなくなり、被害が拡大してしまう、というものです」 ターゲットは「投資に興味がある人」 警視庁は以下のように注意喚起しています。 「ターゲットは、投資に興味がある方々。投資して資産を増やそうと思っている方すべてが、被害に遭う可能性があります。インターネット上で著名人を騙り、高利回りをうたう広告や儲け話は注意が必要です。特にSNSに誘導しようとする時点で詐欺を疑ってください。SNSにおけるメッセージのやり取りもよく確認をしてください。日本語が不自然である場合があります。 また、騙った会社名と送金先の会社名が違ったり、毎回違った名義や個人宛てに送金させたりするケースにも注意してください。『出金のために手数料が数千万円かかる』『税金を払うため送金を指示する』などは冷静に考えればありえないことです。さらに、相手方が金融商品取扱業者を名乗っていても、実際に取引を開始するときには、金融商品取引法に基づき金融庁に申請・登録をしている正規の業者かを確認してください。 金融商品の販売、勧誘には金融商品取引法でルールが定められています。『金融商品取扱業者』であることや、『登録番号』などが表示されているか必ず確認してください。また、著しく人を誤認させるような広告も禁止されています。『必ず値上がりする』『楽して儲ける』などメリットのみ強調する広告には注意してください。 大切な資産を失い、家族にも相談できない方も多いと思います。特定非営利活動法人『証券・金融商品あっせん相談センター』(フィンマック)や最寄りの警察署で相談を受け付けています。投資に関する情報にすぐに飛びつくことなく、よく調べる、身近な人に相談するなどの防御する術を身に付けてください。不安に感じることがあれば、遠慮することなく警察に相談してください」 国民生活センター「被害回復が困難」と注意喚起 消費者問題を扱う独立行政法人「国民生活センター」も5月、SNSをきっかけに、著名人を名乗るなどして勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブルが急増しているとして、「いったん振り込みしてしまうと、被害回復が困難です!」と注意喚起を行いました。 同センターHPによると、「『○○(著名人)が主催する投資の勉強会』『○○(著名人)が投資のノウハウを教える』『○○(著名人)と知り合いで儲かる』などと勧誘され、投資名目で振込をしたものの、『追加費用を支払わないと出金できないと言われた』『相手と連絡が取れなくなった』などの被害が発生。全国の消費生活センターに寄せられた相談と平均契約購入金額※は、2022年度には170件、平均契約購入金額234万円だったのに対し、2023年度は1,629件と約9.6倍に増加。被害額も687万円に急増(※)」とのことです。 (※)PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)における「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る、つながりがあるなどと勧誘される金融商品・サービスの消費者トラブル」の相談件数及び平均契約購入金額の推移 具体的な相談事例として、「有名経済評論家の投資相談に参加したところ、アシスタントを名乗る人に次々と投資を勧められ、総額1,500万円を振り込んだが出金できない」というものを掲載しています。 「母から相続した資産で投資をしようと考えていたところ、有名経済評論家が主催する投資相談のSNS広告が表示され、100万円が1億円になったとの体験談が掲載されていたので興味を持ち、メッセージアプリへ登録した。すると有名経済評論家のアシスタントを名乗る人からメッセージが届き、海外株が短期で値上がりすると投資話を持ちかけられた。有名経済評論家が言うことなら信用できると思い100万円を振り込んだ。すると後日『100万円では利益が少ない。追加で100万円を振り込むように』とメッセージが届き、別の銀行口座へ振り込んだ。 1週間後、『もっと利益が高い投資がある。経済評論家の先生へメッセージを送ってください』と連絡があり、別の銀行口座へ750万円と50万円を振り込んだ。さらにその2週間後、短期投資の話を持ち掛けられて250万円を2回、計500万円を新たな指定口座へ振り込んだ。 その後、運用状況で確認すると6,000万円の利益があったので資金を引き出したいと申し出たところ、出金手数料900万円と、運用している海外の株式市場に税金1,300万円を支払わないと出金できないと言われた。(2024年1月受付 60歳代 女性)」 そのほか、「『有名投資家がノウハウを発信すると謳っていたが、その有名投資家は関与しないものだったうえ、投資額を勝手に決められて違約金も請求された』『『絶対に負けない投資家を知っていて自分も投資で儲かった』という有名投資家の姪から勧められてFX取引を始めたが、連絡が取れなくなった』といった相談が寄せられている」とのことです。 SNS上での勧誘は疑って 同センターは消費者へのアドバイスとして、「▽SNS上で勧誘を受けた場合は、まず疑ってみる▽投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合、それは詐欺なので振り込まない▽被害回復が難しいため、安易に投資資金を振り込むことは控える▽不審に思ったら、すぐに消費生活センター等に相談しましょう」と呼びかけています。 ※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。 ご投資にあたっての注意点
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07/14 19:00
【特集】株価に影響を与える主な要因~金利・企業業績・リスクプレミアム・VIX指数~
株価に影響を与える要因として主に「金利」「企業業績」があり、「リスクプレミアム」も要因として挙げられます。可視化しにくい要因であるリスクプレミアムについては「VIX指数」という指標が参考になります。株価と各指標の関係や見方について、野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの小高貴久が解説します。 株価に影響を与える主な3つの要因 ――最近、米国の金利と株価のニュースをよく耳にします。株価と金利はどのような関係にあるのでしょうか。 一般的に、金利が上昇すると、株価が下がる要因となり得ます。直感的には「金利が上昇すると企業の資金調達コストも上昇し、企業の業績が圧迫されるのではないかと投資家が不安視するため」と考えると分かりやすいのではないでしょうか。 ただ、より重要なのは、金利は「お金の将来の価値を現在の価値に計算し直す(現在価値に割り引く)」役目を担っている、という点です。 金利が上昇すると企業が生み出す将来のお金の価値が同じだとしても、現在の価値に計算しなおしてみると割引率が大きくなり、現在の価値が下がることになります。その結果、企業価値を映し出す株価も下落するのです。 以下の図を例に解説します。 (出所)野村證券投資情報部作成 例えば1年後の価値が2,000円、今の金利が0%と考えてみます。1年後の価値を今の価値に計算しなおしてみると、金利は0%であれば、今の2,000円と1年後の2,000円は価値が同じです。次に、仮にこの瞬間、金利が0%から1%に上昇したとします。すると、1年後の2,000円の価値は、今、1,980円(≒2,000円÷1.01)に下落することになります。 さらに、金利がこの瞬間に2%に上昇したとすると、1年後の2,000円という価値は、今、1,960円(≒2,000円÷1.02)に下落することになります。株価は1年後、2年後……、10年後……、の利益や価値を、市場参加者が「今買うならばいくらか」と考えることによって値付けされるため、金利の影響は小さくないと言えます。 米国では、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が高い金利水準を維持する金融政策によって景気の過熱を抑え、耐え難いほどのインフレが徐々に減速しています。このため、そろそろ金利を引き下げて、金利水準を正常化しても良いのではないか、といった市場の見通しが広がっています。 しかし、毎月発表されるCPI(消費者物価指数)や雇用統計などの景気指標で、まだまだインフレ率が安心できるほど抑制されていなかったり、逆に強い経済指標であったりすると、「利下げが先送りされる」という見方が強まり、金利の上昇とともに株価が下落してしまうケースもあります。 好景気が続いているのに株価が下落する、という理屈が不自然だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これまでに説明した金利による株価への影響を踏まえると、納得いただけるのではないでしょうか。 金利の代表的な指標である国債の利回りは、1年、2年、3年……と様々な年限がありますが、それだけたくさんの金利を全て見ることはできません。このため、代表的な指標と言われる10年国債の利回りを見ることで、株価との関係を判断するのが良いと思います。 日本銀行のマイナス金利政策が2024年3月に解除された影響で、2024年5月22日には約11年ぶりに10年物国債の利回りが1%に上昇しました。長期の住宅ローンなどを組もうとしている方だけでなく、株式や投資信託などに投資し、資産を運用している方も、今後の動向を注視した方がいいでしょう。 ――では、企業の業績はどうして株価に影響するのでしょうか。 これは3つの要因の中でも最も基本的な話ではありますが、企業が事業によって生み出した利益は、設備や新規事業への投資の原資となるだけではなく、配当金などとして株主に還元されます。業績が良くなって利益が拡大していけば、その企業の将来の価値が増えてゆくことが期待されるため、株価の上昇要因となります。 個別の企業に限らず日経平均株価やTOPIXなどでも同様に、組み入れ銘柄の利益が拡大することに関係しそうなニュースや、アナリストなどの業績予想の上方修正などが、値動きに影響すると言えます。 ――「リスクプレミアム」という言葉はやや聞きなれないのですが、これはどういったものなのでしょう。 リスクプレミアムとは、その金融資産を保有した場合の「期待収益率」のうち、長期国債金利など相対的にリスクが低いとされる安全資産の利回りを上回る部分を指します。「危険負担料」などと呼ばれることもあります。リスクプレミアムが拡大すると、株価が下落する要因となり得ます。 例えばある企業を例に考えてみましょう。この企業が進めている事業が、利益が出るかどうかが不透明な事業や、利益の変動の大きい事業、つまり投資資金の回収リスクがあると判断されれば、投資を手控える投資家が増え、株価が下落する要因となります。 具体例を挙げるとすると、ウクライナへの軍事侵攻に対するロシアへの経済制裁は、「ロシアの企業との金融取引ができなくなる」という非常に大きなリスクプレミアムと考えられます。影響範囲はロシアの企業だけでなく、ロシアの企業と取引をしていた他国の企業など世界の市場に影響が及びました。 一方で、リスクプレミアムが大きい金融商品は「期待収益率の不確実性」が大きいため、期待できるリターンも大きくなるとも言えます。 ただ、株式のリスクプレミアムには、CAPM(資本資産価格モデル)といった理論による公式などもありますが、直接的には観測しにくい指標と言えます。 リスクプレミアムの代替指標としてのVIX指数とは ――リスクプレミアムが直接観測しにくい指標なのであれば、ほかに「期待収益率の不確実性」を示す指標はありますか。 「VIX指数(ボラティリティー・インデックス)」という指標があります。株価が大きく下落すると、VIX指数も上昇するケースがあります。VIX指数はCBOE(米シカゴ・オプション取引所)が米国の代表的な株価指数の一つ、S&P500を対象とするオプション取引のボラティリティー(変動率)を基に算出・公表している指数です。 オプション取引は(1)将来のあらかじめ決められた期日に、(2)金融商品を現在取り決めた価格で(3)売買でき、都合が悪ければしなくても良い、という権利の取引のことです。経済の先行き不安などで投資家のリスク回避姿勢が強まり、株式を売却したいという動きが強まると、「今の時点で一定の価格を決めておいて、その後もっと株価が下がったとしても、下がる前の株価で売り抜けることができる」というオプションの権利の価値が高まります。 他にも細かくは色々とあるのですが、このような変化を指標として反映するVIX指数も上昇します。このため、投資家の恐怖心理を表しているとされ、「恐怖指数」とも呼ばれます。過去の株価変動の結果が将来の株価に影響を与えると考えられるためです。 VIX指数自体は米国株市場の指標ではありますが、米国には世界的な企業も多く、特に米国と日本は経済的な結びつきも深いこともあり、日本経済は米国経済の影響を強く受けやすいと言えます。 このため、VIX指数が変動すると日本の市場にも影響します。ちなみに、日本にも日経平均株価のオプション取引のボラティリティーを基に算出される「日経平均ボラティリティー・インデックス」という指数もありますが、世界的に注目度の高いのはやはりVIX指数の方ではないでしょうか。 VIX指数は20を超えると市場に参加している投資家の不安心理が高いと見なされることが多く、この水準を下回ることが、市場が安定していると判断される一つの目安になっています。VIX指数はこれまで、リーマン・ショック時の2008年10月に89.53、コロナ・ショック時の2020年3月に85.47まで上昇しました。 (注)データは日次で、直近の値は2024年5月30日。政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利翌日物のレンジの中央値。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 ――直近のVIX指数の推移を見てみると、2023年10月と2024年4月に上昇しています。何がVIX指数に影響を及ぼしたのでしょうか。 これは、イスラエルとイランを取り巻く地政学リスクの高まりを受けたものと考えられ、特に、産油地域の混乱が世界経済に悪影響を及ぼす可能性が懸念されました。 ただ、2022年2月のロシアによるウクライナへの侵攻開始や、2022年3月からの米国の利上げが始まった時に比べると、VIX指数の上昇は限定的でした。イスラエルやイランが相互に報復を続けることを自重する動きも見られるため、市場参加者も現時点で中東の地政学リスクが株価に与える影響も限定的なものにとどまると見ているのではないでしょうか。 これは、世界経済における存在感が大きいサウジアラビアなどの主要な産油国に戦闘が広がっていないためとも言えます。ただし今後、主要な産油国にまで戦闘地域が拡大し、原油価格がさらに高騰することになれば、株価下落を通じて株式市場の見通しが変化します。VIX指数が20を超えるような際には、株価が不安定になることを想定していると考えられるため、注意が必要でしょう。 ご投資にあたっての注意点
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07/14 16:00
【オピニオン】米国:大統領選挙後は好景気になる?
※画像はイメージです。 米国の次期大統領による財政政策と、それによる景気への影響は金融市場にとっての関心事です。下図のように、米国の財政収支は、好景気の際に黒字化、もしくは、財政赤字が縮小しました。これは、税収などの歳入増加や、景気対策の縮小による歳出減少が要因とみられます(収入が増え、支出が減るため、収支が改善)。一方で不況時には、景気対策を強化するため歳出を増やし財政赤字を拡大させる形で、金融政策とともに景気を支えました。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)コメントは、黒文字は財政黒字が拡大もしくは財政赤字が縮小した局面、赤文字は財政赤字が拡大した局面で、全てを網羅しているわけではない。年度は前年10月から9月。(出所)米議会予算局、セントルイス連銀より野村證券投資情報部作成 財政赤字の拡大には、下記のような影響があると考えられます。 ① 短期的に景気にプラス ② 連邦債務上限の引き上げが必要(過去には議会交渉の難航で一部の政府機能が一時停止) ③ 米国債格下げリスクが増加 民主党バイデン候補と共和党トランプ候補の、どちらが勝利した場合でも米国の財政赤字は拡大するとみられます。予算見通し等を作成する中立的な機関である米国議会予算局が2024年6月に公表した見通しでは、現行法、つまりバイデン政権の従来の政策が継続した場合には、財政赤字が高い水準で維持されると試算されています。これに含まれない、バイデン候補が公約する2025年末で失効するトランプ減税の一部延長が法制化されれば、2026年度以降の財政赤字は更に拡大することになります。 トランプ候補は、歳入面では減税を公約する一方で、歳出面では社会保障費の削減を明確にしておらず、当選した場合の財政赤字の水準が不透明です。トランプ前政権はトランプ減税を実施し、オバマ政権時の見通しより歳入が減少した一方で、歳出の削減額は減税分より少額で、財政赤字が拡大しました(共和党政権は伝統的に予算面で小さな政府)。 2024年6月27日に開催された両大統領候補者によるTV討論会では、バイデン候補が精彩を欠き、トランプ候補が優勢と報道されています。ただ、公約が実行される前提では、どちらの勝利でも財政赤字は拡大し、短期的に景気にはプラスと考えられます。 一方で、議会選挙の結果により、大統領、上院・下院の多数派について共和党、民主党が分かれた場合は、選挙後の2025年1月1日まで停止されている連邦債務上限の引き上げ交渉が、より難航するリスクがあります。金融市場への影響の観点からは、大統領選挙、議会選挙の結果と、それによる選挙後の予算教書などが注目されます。 ご投資にあたっての注意点
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07/14 12:00
【野村の視点】業種別とPBRでみる外国人投資家動向
(注)画像はイメージ。 日本株の外国人保有比率は、日本の人口減少とそれによる潜在GDPのマイナス成長を反映 東証33業種の外国人保有比率は、精密機器、電気機器、医薬品、機械、化学といった、製品がグローバルで販売される外需株の比率が高く、外国人保有制限のある空運業や、内需株である水産・農林業、倉庫・運輸関連業、陸運業、小売業などの比率が低くなっています。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)業種は東証33業種で、外国法人等保有比率の高い順。外国法人等保有比率は2023年度。年度は4月から翌年3月。PBR(株価÷1株当たり純資産)は、株価は2024年6月末時点、1株当たり純資産は2023年度の実績値より試算。赤色の網掛けはPBR1倍割れの業種。(出所)日本取引所グループより野村證券投資情報部作成 また、PBR(株価純資産倍率)が低い、つまり株価が割安な企業は、内需株に多くなっています。日本のGDP成長率が、人口減少により将来マイナスになる、つまり国内経済の縮小が見込まれているためと推察されます。 (注)潜在GDP成長率を、労働力、資本、生産性(全要素生産性=労働力と資本以外の要因)の成長率で説明(但し、要素の成長率の合計は潜在GDP成長率と必ずしも一致しない)。2024年以降は予想で、実績・予想ともブルームバーグによる推計値。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 インバウンドや東証要請などを追い風にできる内需株は見直されつつある 訪日外国人の消費(インバウンド消費)や海外消費者への販売、外国人労働者の受け入れを政府支援などを活用して強化し、業績を成長させることができる企業は、内外投資家の評価が改善する可能性があると考えられます。空運や陸運、小売などのインバウンド関連の内需株の外国人投資家の保有比率は2022年度から2023年度にかけて増加しました。 また、2023年3月の東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を、日本企業が実施することに対する期待も外国人保有比率の増加につながったと考えられます。 今後も継続的にグローバルで評価されるような日本企業の施策が注目されます。 (野村證券投資情報部 竹綱 宏行) ご投資にあたっての注意点
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07/14 09:00
【注目トピック】米国株が決算シーズン突入、増益率の拡大が予想される
※画像はイメージです。 増益率拡大傾向に変わりはないかに注目 4-6月期は前年同期比+8.8%予想 7月中旬から、S&P 500 指数構成企業の2024年4-6月期の決算発表が本格化します。2024年7月5日時点の調査会社LSEG集計による市場予想平均では、同期の四半期EPS(1株当たり利益)は、前年同期比+8.8%と予想されています。2024年1-3月期の同+6.6%と比べ、増益率が拡大する見込みとなっています。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 2024年1-3月期は、同期の決算発表が本格化する直前の2024年4月5日時点の集計では同+3.5%と予想されていました。しかし、決算実績が事前のアナリスト予想平均を上回るポジティブサプライズの比率が高かったことで、実際には前述の通り同+6.6%まで拡大しました。同様の傾向が続けば、2024年4-6月期も、現時点での予想よりは高い増益率となる可能性が考えられます。 アナリスト達は慎重に見直している模様 リビジョンインデックスの動向をみると、2024年7月3日時点では、FY1(予想1期目)は0.98、FY2は0.88となっています。 2024年4-6月期の決算発表を前に、アナリスト達は業績予想を慎重に見直しているとみられます。 決算発表時の注目点 年度ベースでのEPSについてみると、2024年は前年比+10.1%と、2023年の同+1.5%から増益率が拡大すると予想されています。さらに、2025年、2026年と前年比二桁増益が予想されています。 米国には情報技術分野で世界をリードしている企業が多数あることから、AIの普及などに伴い、情報技術関連企業主導により企業業績が拡大していくことへの期待が織り込まれていると推察されます。 今後、2024年4-6月期決算の発表が本格化した際には、足元の業績動向に加え、情報技術関連企業については、AI普及による業績拡大傾向に変わりがないかを確認していきたいと考えます。 一方、景気敏感業種については、会社業績見通しや経営陣コメントなどから、企業業績動向に加え、米国の景気動向への示唆が得られないか等を見ていきたいと考えます。 (野村證券投資情報部 村山 誠) ご投資にあたっての注意点
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07/13 19:00
【来週の米国株】「バイデン降ろし」は”降りる”理由になるか?(7/13)
※執筆時点 日本時間12日(金)12:00 今週:CPI減速でリバーサル ※7月5日(金)-7月11日(木)4営業日の騰落 今週の米国株式市場は、週前半にS&P500やナスダック総合が連日史上最高値を更新していましたが、11日(木)の6月CPI(消費者物価指数)の発表をきっかけにリバーサル的な動き(S&P500やナスダック総合は反落、NYダウや中小型指数であるラッセル2000が反発、本邦政策当局の円買い為替介入が加わった模様で円高ドル安)となりました。6月CPIは前月比-0.1%と市場予想(同+0.1%)や5月実績(前月比横ばい)を下回りました。ガソリン価格が同3.8%下落したほか、航空運賃や中古車価格も下落しました。 「バイデン降ろし」の声、高まる 米国では6月27日の大統領候補者討論会以降、民主党内でバイデン大統領に対して大統領候補から辞退することを求める声が高まっています。PedeictItの調査では当選確率はトランプ氏59%、ハリス氏29%、バイデン氏17%となっています(日本時間12日(金)7:51)。同調査で民主党の大統領候補となる確率はハリス氏が55%、バイデン氏が32%と既に逆転しています。バイデン大統領自身は撤退する意思がないことを繰り返し表明していますが、民主党の重鎮がバイデン大統領支持を明示しなかったこと等が報じられ、市場の憶測を呼んでいます。 猶予はあと3週間か 民主党の全国大会は、8月19~22日に予定され、1ヶ月先に近づいています。本来は、民主党予備選挙で選ばれた各州の代議員(どの候補に投票するか事前に誓約している)が、全国大会で投票を行い、正副大統領を選出する仕組みです。しかし、オハイオ州では、投票用紙に記載するために、8月7日までに各党の大統領候補を申請する必要があるため、全国大会の前、オハイオ州の申請期限前にオンラインで投票を行い、正副大統領を選出することが民主党内で検討されています。このため、バイデン大統領が戦い続けるのか、あるいは撤退して他の候補を選出するのかを決める時間的猶予は3週間程度と考えられます。 「もしトラ」リスクとの向き合い方は 市場ではバイデン大統領が撤退すると共和党(トランプ氏)が勝利する確率が上がると考えられており、「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領になったら)」リスクが注目されます。トランプ氏が大統領となる場合のリスクを考えると、景気好調となっても減税や移民規制の強化などの政策を採用してインフレが再燃するのではとの懸念があります。金利が再上昇し株価全体の重石になるほか、政策の影響を受けやすい業種・企業にとっては意思決定や設備投資の一部が後ずれしうることも懸念材料です。 一方で、過去2回の大統領選挙に限ってみれば、株式投資のパフォーマンスを上げるチャンスでした。 過去はどちらの党の大統領誕生でも選挙後に争点の業種が上昇 (注)棒グラフの色は、当選した大統領の政党のイメージカラー(共和党は赤、民主党は青)。すべての業種・指数を網羅しているわけではない。大統領選挙日は、2016年11月8日と2020年11月3日。(出所)LSEG(旧リフィニティブ)より野村證券投資情報部作成 S&P500は、大統領選挙から年末までに、共和党のトランプ氏が勝利した2016年は5%、民主党のバイデン大統領が勝利した2020年は11%上昇しました(S&P500の2016年/2020年の年初から大統領選挙前日までの騰落率はそれぞれ+4%、+2%)。 業種別では、エネルギーと金融は規制強化を主張する民主党と、規制緩和を主張する共和党で政策が分かれますが、2016年と2020年の大統領選挙後は、勝利した政党と関係なく、 S&P500を上回る上昇率となりました。さらに、米国の中小型株指数のラッセル2000や、日経平均も両年とも大統領選挙後に上昇しました。 民主党政権になった際に規制が強化される、また、トランプ氏が当選した際に政策の不確実性が高い、と考えて選挙前に投資を手控えた投資家が、選挙後に投資を復活させたためと考えられます。 今回の大統領選挙の前後で、株価の動向がどうなるか不透明感は強いですが、継続して投資することが中長期的な投資の観点では重要と考えられます。 来週①:FOMC前の高官発言に注目 今週も15日(月)のパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長のインタビューを始め、多くのFRB高官の講演等が予定されています。7月30-31日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)を前にFRB高官は20日(土)から沈黙期間に入ることから、発言内容への関心は高いとみられます。6月FOMC(米連邦公開市場委員会)では24年中は1回の利下げ見通しがFOMCメンバーの中央値となりましたが、議長、副議長やNY連銀総裁など執行部メンバーの多くは年内2回の利下げを予想していると見られることから、1回以下の利下げを予想したと想定されるFOMC委員の発言に変化がないかが注目されます。 今週発表される米国の経済指標では15日(月)の7月NY連銀製造業景気指数、16日(火)の6月小売売上高、17日(水)の6月住宅着工・建設許可件数、6月鉱工業生産、18日(木)の7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が注目度の高い統計です。 来週②:4-6月期決算発表が本格化 米主要企業の2024年4-6月期の決算発表が本格化します。決算実績に加え、会社業績予想や経営陣コメントなどから、米国を始めとしたグローバル経済への示唆を確認していきたいと考えます。各業界を見るうえで注目される企業として、16日(火)のユナイテッドヘルス、17日(水)のジョンソン・エンド・ジョンソン、18日(木)のネットフリックスが挙げられます。 (編集:野村證券投資情報部 小野崎 通昭) ご投資にあたっての注意点 要約編集元アナリストレポートについて 野村オリジナル記事の配信スケジュール
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07/13 09:00
【マーケット解説動画】日経平均、7月12日の大幅安を受けて(7月12日引け後収録)
テクニカル展望(7月12日引け後収録) 今週の「テクニカル展望」動画では、弊社の岩本ストラテジストが 、チャート分析の観点から、今後の展望や注目点について15分ほどで解説しています。今後の投資の参考にご覧ください。 今週の収録内容 「日経平均、7月12日の大幅安を受けて」 1.1週間の振り返り2.日経平均株価:日足3.ドル円相場:日足・週足4.来週の注目イベント (解説)野村證券投資情報部ストラテジスト 岩本 竜太郎 ※動画の終盤に言及している、「アンケート」については、NOMURAアプリではご回答いただけません。ご了承ください。 ご投資にあたっての注意点
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07/13 07:00
【来週の予定】バイデン氏撤退論の行方は?共和党は副大統領候補に注目
来週の注目点:FRB高官発言、中国の重要統計とECBの政策理事会 米国では6月27日の大統領候補者討論会以降、民主党内でバイデン大統領に対して大統領候補から辞退することを求める声が高まっています。一方、共和党は7月15日(月)~18日(木)にミルウォーキーで全国大会を開催し、トランプ氏を正式に同党の大統領候補に指名します。市場の関心は副大統領候補に集まっています。 今週も15日(月)のパウエルFRB議長のインタビューを始め、多くのFRB高官の講演等が予定されています。6月FOMC(米連邦公開市場委員会)では24年中は1回の利下げ見通しが中央値となりましたが、議長、副議長やNY連銀総裁など執行部メンバーの多くは年内2回の利下げを予想していると見られることから、1回以下の利下げを予想したと想定されるFOMC委員の発言に変化がないかが注目されます。 今週発表される米国の経済指標では15日(月)の7月NY連銀製造業景気指数、16日(火)の6月小売売上高、17日(水)の6月住宅着工・建設許可件数、6月鉱工業生産、18日(木)の7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が注目度の高い統計です。 中国では15日(月)~18日(木)に中長期の政策を議論する三中全会が開催されます。また、同15日には4-6月期実質GDP成長率を筆頭に、6月小売売上高、鉱工業生産、1-6月固定資産投資と重要度の高い統計が発表されます。消費の行方に加え、不動産市況に好転の兆しが確認できるかが注目点です。 ECB(欧州中央銀行)は18日(木)に政策理事会を開催します。金融政策は据え置きが予想されます。ラガルド総裁は追加利下げに慎重な姿勢を示しており、データ次第との見解を強調することが予想されます。 日本では17日(水)の6月訪日外国人客数、19日(金)の6月全国消費者物価指数が注目度の高い統計です。 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2024年7月12日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/12 19:00
【特集】野村證券・池田雄之輔「日経平均株価一時42,000円超えの背景にある3つの理由」
文/斎藤 健二(金融・Fintechジャーナリスト) 2024年7月初旬、日本株は大きく上昇し、連日のように最高値を更新する相場となりました。7月4日にはTOPIX(東証株価指数)が史上最高値を更新し、7月11日には日経平均株価が終値で42,224円となり、初めて42,000円台を突破しました。ただし、7月12日には反落し、日経平均株価が1,000円超の値下がりになるなど、上下動が激しくなっています。 日経平均株価は2024年2月に34年ぶりの最高値を更新したものの、4月から6月にかけて足踏みしてきました。再び上昇した背景には何があるのでしょうか。野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。 2024年に入ってから、日本株の動きはダイナミックでした。年初に日経平均株価は33,000円からスタートし、41,000円まで一気に上がりました。その後は上がった分の半分ほど下げて37,000円台まで下落しましたが、また上昇し、7月11日終値では42,000円を超えるまでに回復しました。 このような急激な上昇を見ると、「高すぎる、今のうちに売却したほうがいいんじゃないか」「株価が高くて今さら投資を始められない」という“高所恐怖症”になる方もいるかもしれません。しかしこれは一過性の強さではなく、日本経済の構造的な変化の反映だと考えています。 日経平均上昇の背景にある3つの要素 日本株の急上昇の背景には、3つの重要な要素があると考えます。1つ目はデフレ脱却、2つ目は脱中国の動き、そして3つ目がコーポレートガバナンスの改革です。 1つ目のデフレ脱却は、日本株が昨年来これだけ強くなってきている最大の理由だと考えています。日本経済は90年代以降、長くデフレに苦しんできました。バブル崩壊後、経済は縮小均衡にあり、企業が値上げに踏み切れない世界を長く経験してきたのです。それが今、30年ぶりにデフレ脱却に向かっています。 2つ目は、グローバルな投資家が中国からお金を逃がそうとしている、「脱中国」とも呼べる出来事です。世界の投資家の間で、中国がデフレに突入するのではないかという警戒感が特に昨年から強まっています。中国がかつての日本のように不動産バブル崩壊を機に、長期停滞に陥るのではないかという不安から、中国株に投資していたお金の逃げ場所として日本が選ばれやすくなっているのです。 3つ目は、コーポレートガバナンスの改革です。2023年3月、東京証券取引所から上場企業に向けて、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応をするようにという要請がありました。これが予想以上に実のある改革につながっています。 この3つの要素が同時に進行していることが、日本株の強さを支えているという見方をしています。 6月にかけてなぜ株価の調整が起きたのか では、6月にかけてなぜ株価の調整が起きたのでしょうか。 まず、デフレ脱却に関しては、良いニュースがいったん出尽くしたという状況だったと思います。3月中旬に春闘の第1回集計が出て、5%を超える賃上げがされたことがわかりました。さらに、日銀が3月の決定会合でマイナス金利を解除するという歴史的な決定をしました。これらのイベントが、デフレ脱却の象徴的なターニングポイントとなり、ある意味で「良いところは出尽くした」という捉え方をされ、利益確定も進んだと見ています。 次に、中国に関しては、3月から4月にかけて、意外にも中国経済が回復するのではないかという見方が出てきました。春先に経済指標が一時的に上向いたこともあり、中国株が買われる時期がありました。そのため、それまで日本に逃げ込んでいたお金の一部が中国に戻るという動きが見られました。 最後に、コーポレートガバナンスについても、一旦の出尽くし感が出ていました。5月の連休前後に企業の決算発表がありましたが、自社株買いの発表など良いニュースがある一方で、2024年度の業績見通しについては増益を見込まない企業が多く、やや保守的な印象が強まりました。 さらに、日銀の金融政策に関する不透明感も株価の重石となりました。6月14日の金融政策決定会合で、国債買い入れの減額を検討すると発表があり、これも市場に不透明感をもたらしました。 懸念払拭し再上昇始めた日本株 では、ここに来てなぜ日経平均は再び上昇に転じたのでしょうか。実は、先ほど述べた3つの要素自体は変わっていません。それぞれの要素について、市場の見方が再び前向きになったことが大きいと見ています。 まず、デフレ脱却に関しては、日本のインフレの持続性や賃金の強さが改めて認識されました。今回のインフレが始まった当初は、輸入物価の上昇によるコストプッシュ型のインフレだという見方もありましたが、人手不足と相まって賃金上昇が起こり、より持続的なインフレに変化しつつあります。象徴的なのは、輸入物価が22年9月にピークアウトし、今年6月にかけて8.8%低下しているのですが、同じ間に国内企業物価は5.9%上昇しています。このような「ワニ口現象」は日本が今まで経験しなかった姿です。7月1日に公表された日銀短観でも、全規模・全産業の販売価格見通し(1年後)が2.8%と、2四半期連続で上昇し、値上げカルチャーの浸透を示唆しました。アナリストが追っている個別企業の動向を見ても、値下げを再開するところは少なく、インフレの定着が進んでいることが分かってきました。 次に中国については、米国大統領選におけるトランプ元大統領の再選の可能性が再び意識され始めました。日本時間の6月28日に行われたテレビ討論会の「直接対決」でバイデン大統領の健康不安が高まったことが一つの転機になっています。トランプ氏は対中国で厳しい政策を取ることが予想されるため、再び投資マネーの「脱中国」が注目され始めました。加えて、中国経済の弱さも顕在化し、結果として日本市場の相対的な安定性が再評価されることにつながっています。 コーポレートガバナンスについては、企業業績の保守的な見通しは日本企業の特徴であり、それほど悲観する必要はないという見方に落ち着いてきました。むしろ、今年の自社株買い設定額は6月までで9兆円というレベルになっており、2023年までの水準から約5割増という異次元の増加をみせています。これまでと異なり、株価上昇局面でも自社株買いが積極化しているということは、企業がガバナンス改革に真摯に取り組んでいることの表れと言えます。この点は海外の長期投資家からも高く評価されています。 円安は株価を押し上げた 円高の心配は? 為替市場の動向も株価を後押ししました。円安が進行したことで、日本企業全体としては業績にプラスの影響がありました。ただし、以前のように極端な円安依存ではなく、為替に対する耐性が高まっているのも特徴です。例えば、10円の円安で利益が3%程度押し上げられる効果があります。現在の企業の為替前提は143円程度ですが、そこまで円高が進むと想定した上でも、今年度と来年度は8%台の増益が確保できると試算しています。多少の円高には十分耐えられる体質になっています。 野村では、今後為替は米国の緩やかな金利低下とともに円高ドル安傾向に動くと予想しています。24年12月は148円、25年12月は140円という見立てです。逆に、円安がそろそろ天井に近づいているとみる日本側の理由もあります。例えば1ドル170円を超えるような水準まで円安が進むと、インフレ期待が2%を超える可能性が出てきます。そうなると、日銀も追加利上げを急ぐ必要が出てくるため、「日銀が放置してくれる円安」には限界が訪れると見ています。 為替レートが円高方向に進んだとしても、必ずしも株価の下落に直結しないと考えられます。過去、円高は、世界経済の減速が原因であることが通例でしたが、今回予想する円高は、米国のインフレが明確に沈静化することによる、利下げ転換が主因となりそうです。世界景気の基調は崩れないまま緩やかな円高へと移行するシナリオが考えられます。ドルベースで運用している海外投資家にとってはベストの「円高・株高シナリオ」が実現する可能性は高いと見ています。 2026年3月末の日経平均株価予想レンジの上限は48,000円 以上の理由から、現在の42,000円台という水準は、決して違和感のあるものではないと考えています。ただし、今後のリスクについても考慮する必要があります。主なリスク要因としては、米国の大統領選挙や世界経済の減速などが挙げられます。 まず、米国大統領選挙について、一時的に市場が荒れる可能性があります。特に、トランプ氏の政策は減税期待など株式市場にとってプラスの面もありますが、対中政策に関する不透明性が最大の問題です。 世界経済、特に米国経済の動向も重要です。現在のメインシナリオは景気後退(リセッション)に陥らずソフトランディングすることですが、リセッションのリスクも完全には否定できません。特に注意すべきは米国の消費動向です。これまでコロナ禍で蓄積された貯蓄による消費の下支えがありましたが、その効果も徐々に薄れつつあります。米国の消費が予想以上に弱くなれば、日本の輸出企業にも影響が出る可能性があります。 こうしたリスクにも十分注意しながらも、先に挙げた3つの要素に関する前提が大きく崩れない限りは、株価は上下動を繰り返しながら、基調としては上がる方向を見ています。今の状況で、「株価が高すぎる」と過度に恐れる必要はないでしょう。 野村證券では2025年3月末の日経平均株価の予想レンジを36,000円から44,000円とみています。今の株価水準から考えると、このレンジの上限に達する可能性があると見ていいでしょう。2026年3月末の予想レンジの上限は48,000円としています。日本企業の構造的な変化と、それに伴う持続的な成長への期待が、今後の株式市場を支える大きな要因となりそうです。 野村證券 市場戦略リサーチ部長 池田 雄之輔 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「モーニングサテライト」に定期的に出演中。 ご投資にあたっての注意点