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07/02 08:25
【野村の朝解説】NYダウは続伸も、ハイテク株は下落(7/2)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 7月1日の米国株式市場では、NYダウが続伸した一方でS&P500やナスダック総合は反落しました。朝方発表された6月ISM製造業景気指数、5月雇用動態調査(JOLTS)では、結果が市場予想を上回り、米景気と労働需要の底堅さが示されました。しかし、米長期金利が小幅に上昇する中で、情報技術セクターなどを中心に下落し、株式市場全体を下押ししました。正午過ぎのトランプ減税の延長を柱とする減税・歳出法案が上院で可決されたとの報道は相場の支援材料となりましたが、トランプ大統領が「7月9日の関税猶予期限を延長することは考えていない」と述べたことが相場の上値を抑えました。 相場の注目点 本日の日本株は日米通商交渉の不透明感が相場の上値を抑えると見ています。相互関税の上乗せ分の停止期限である9日を控えて、トランプ大統領は日米の合意が困難との見方を示し、30-35%の関税を課す可能性を示唆しています。参院選前に日本側が農業などの分野で踏み込んだ譲歩を示すことは難しいとみられ、日米間の交渉が本格化するのは参院選後となる可能性があります。短期的に関税が引き上げられるリスクシナリオにも注意が必要です。 他方、史上最高値の更新が続いた米国株は、ハイテク株を中心に短期的な過熱感が出てきています。株価の押し上げ材料となってきたのはFRBによる早期利下げへの期待と、米国の関税政策を巡る通商交渉の進展期待、中東情勢の緊張緩和などです。この先は経済指標やFRB高官の発言から市場で織り込みが進む9月会合での利下げが妥当か、問われることになるでしょう。米国では、2日に6月ADP全米雇用レポート、3日に6月雇用統計、6月ISMサービス業景気指数と、景況感や雇用に関する重要統計の発表が相次ぎます。 (野村證券 投資情報部 坪川 一浩) (注)データは日本時間2025年7月2日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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07/01 16:41
【野村の夕解説】日銀短観は概ね良好だが株価は反落 501円安 (7/1)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 6月30日に、トランプ大統領はソーシャルメディアへの投稿で、日本の米国産コメの輸入に対して不満を示しました。そのほか東京時間の寄り付き前には、日本の日銀短観(6月調査)が公表され、大企業製造業の業況判断DIは前回3月調査から2四半期ぶりに改善しました。また注目されていた企業の設備投資計画も、大企業を中心に上方修正されました。本日の日経平均株価は、前日比146円安の40,340円で始まり、その後下げ幅を拡大させ、軟調な動きが続きました。米国による関税強化の懸念が強まりリクオフのムードが高まったことに加え、6月30日までで5営業日続伸となった株価の過熱感が意識されました。また、目立った進展がみられない日米の貿易交渉への懸念から、外国為替市場では一時1米ドル=143.50円前半と円高へ進行したことも相場の重石となりました。更に、今晩の米国の経済指標の発表を控え様子見の姿勢も広がり、後場には一時前日比602円安と下げ幅が広がりました。大引けは前日比501円安の39,986円となり、6営業日ぶりの反落となり取引を終えました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 米国では、1日に6月ISM製造業景気指数と、5月JOLTS(雇用動態調査)が公表されます。結果を受け、米国の利下げ観測に影響を与えるのか注目されます。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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07/01 11:31
「令和の米騒動」から見た日本酒業界の将来
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 鈴木 拓実(2025年7月15日) はじめに 近年、日本酒業界を騒がせるニュースが数多く報道されている。日本酒の新規の製造免許取得者数が過去70年間で0件である一方で、新たな日本酒の形としてクラフトサケが台頭しつつあるといった内容だ。そして、最も業界を揺るがせているのが、「令和の米騒動」である。主食用米の価格は2024年夏ごろから上昇し始め、2025年5月の時点では連続17週にわたり高値を更新し、前年同月比で100%以上の値上がりを示す場面も見受けられた。この「令和の米騒動」と呼ばれる状況は主食用米にとどまらず、日本酒の原料である酒造好適米(以下「酒米」と表記)にも大きな影響を及ぼし始めている。本レポートでは、日本酒業界の現状を確認しつつ、令和の米騒動が業界に与える影響について考察し、その対策についても一部触れていく。 1.国内の日本酒業界の現状分析 日本酒の起源には諸説あるが、稲作が伝来した弥生時代にはその原型となる形がすでに存在していたとも言われている。古くから日本人に親しまれてきた日本酒であるが、その消費量は減少の一途をたどっている。国税庁が公表している清酒(原料の米に海外産を含むものも含めた総称、以下「清酒」と表記)の販売数量は、図表1に示す通り、清酒の消費数量およびアルコール飲料全体に占める清酒の割合は、1971年の31.5%から2023年には5.2%にまで著しく減少している。近年では健康志向の高まりや若者のアルコール離れにより、アルコール全体の消費量が減少しているのは言うまでもないが、アルコール飲料内での清酒の割合の低下から、清酒の存在感が薄れてきていることが読み取れる。 その一方、減少傾向にある日本酒の中でも、特定名称酒のうち、とりわけ純米酒や純米吟醸酒に限定すれば、消費量は横ばいか増加傾向にあるのが興味深い事実である。図表2に示すように、1992年度における清酒全体に占める純米酒および純米吟醸酒の割合はわずか6%であったが、2022年度には23%まで拡大している。日本酒全体の消費量が減少する中で、比較的高価格な純米酒や純米吟醸酒の消費が横ばいもしくは増加していることは、日本酒が普段飲みの飲み物から嗜好品へとシフトしていることを示していると考えられる。消費者の味覚や品質に対する関心の高まりがあるとみられ、今後もこうした高品質な日本酒の需要は堅調に推移すると予想される。 図表1(左図) 清酒(合成清酒含む)消費数量 およびアルコール飲料全体に占める消費率図表2(右図) 特定名称酒の課税移出数量(左軸)および清酒に占める純米酒・純米吟醸酒の割合(右軸) (出所)国税庁HP酒税統計情報より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 製造の観点に視点を移すと、清酒の消費量減少に比例して酒蔵数も大きく減少している。国税庁が公表している酒税における「製造免許場数及び販売免許場数」では、ピーク時に約4,000件を上回る清酒製造の免許取得先があったものの、2023年度時点では約1,500件とピーク時の半数以下にまで減少している。また、免許取得者が保有する清酒製造場ごとに行った調査(国税庁「令和5年度分 清酒の製造状況等について」)によると、調査に協力した1,534場のうち「実際に清酒を製造した」と回答したのは1,117場に留まった。清酒の製造免許を保有していても、清酒を製造している蔵数はそれ以下となる可能性を示唆している。 また、酒造りの従事者の高齢化も深刻である。日本酒杜氏組合連合会が発刊する令和元年の「日杜連情報」によると、酒造りの最高責任者である杜氏(季節雇用)の平均年齢は61.8歳とされている。これらの状況を踏まえると、清酒業界は消費量の減少と酒蔵数の著しい減少により、今後の存続自体が危ぶまれる深刻な局面に直面していると言わざるを得ない。杜氏の高齢化が進む一方で後継者不足が解消されておらず、伝統技術の継承も危機的な状況にある。このまま現状が続けば、清酒文化の多様性が損なわれる可能性が高く、今後の打開策が見出せなければ、日本が誇る清酒産業はさらなる縮小が懸念される。 2.令和の米騒動が清酒業界に与える影響 業界環境が芳しくない中、追い打ちをかけるように「令和の米騒動」が報道され、清酒業界を騒がせている。冒頭で述べた通り、主食用米が値上がり、それに引っ張られる形で酒米の高騰及び供給量が減少している。本節では酒米の流通経路を確認し、酒米の高騰および供給量が減少する背景および清酒業界が受ける影響について考察していく。 清酒製造において原料となる米は、主食用米とは異なり、山田錦や五百万石といった酒米が使用されるケースが多い。酒米は酒造りに適した品種改良が重ねられ、酒造り以外の用途で使用されることがないため、栽培に際しては契約栽培となる。流通経路は図表3に記載の通り、生産者が生産した酒米は地場のJAや全農を通じ、都道府県の酒造協同組合から酒造業者へと流通する。一部の酒蔵は自社で精米機等を保有し、酒米農家と直接契約する場合もあるが、多くの酒蔵は都道府県の酒造協同組合を経由して酒米を仕入れる。そのため、酒造協同組合への酒米入荷量が需要量を下回ると、酒蔵は当初想定していた生産量を確保できないことが起こり得る。 農林水産省が公表する「酒造好適米等の需要量調査」によれば、近年は毎年需要量(推計値)を上回る生産量が確保されており、地域や品種ごとの供給不足が生じる可能性はあるものの、酒米全体としては十分な生産量が維持されてきた。しかしながら、冒頭で述べた通り、2024年夏頃から主食用米の価格が継続的に上昇した影響で、酒米から主食用米への転作を選択する生産者が出てきた。酒米は主食用米に比べ、手間が増すうえに反収が低くなりやすいため、主食用米よりも高値で取引されてきたが、主食用米の取引価格が大幅に上昇し、酒米の取引価格と逆転する事態が発生している。 その結果、酒米生産の経済的インセンティブが低下し、酒米生産から主食用米生産に切り替える生産者が一定数存在する。これを裏付けるように、一部地域では、2025年度の県内産酒米収穫量が4割減少、酒米の取引価格が3割上昇する等の報道がなされている。酒米の供給不足により、計画していた清酒の生産量が未達になり顧客の元に商品が届かなくなる可能性があるほか、取引価格の上昇は価格転嫁ができない場合、酒蔵経営に圧迫があるのは疑いがない。 国税庁「令和6年 酒類製造業及び酒類卸売業の概況」から足元の酒蔵の経営状況を確認すると、調査に協力した1,140事業者のうち、約半数にあたる541事業者が赤字・欠損または低収益事業者であることが明らかとなっている。原材料費である酒米価格の高騰を販売価格に転嫁せざるを得ない状況にあるものの、清酒の消費量は減少傾向にあり、価格が上がった清酒を消費者が積極的に購入するとはなかなか考えられない。したがって、抜本的な業界の構造改革や経営戦略の転換を行わない限り、業界再編は避けられないと推測される。 図表3 酒米流通経路 (出所)農林水産省 加工用米等をめぐる事情についてより、 野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.酒米の自社生産による安定調達の可能性 「令和の米騒動」を契機に明らかとなったのは、酒蔵が外部に依存している酒米の調達リスクの深刻さである。米価の高騰や供給不足は、酒蔵の原料確保を困難にし、生産計画の混乱やコスト増大を招いている。このような不安定な環境下で、酒蔵が持続的に安定した品質の日本酒を醸造し続けるためには、原料である酒米の調達体制の見直しが不可欠である。 その一つの有効な手段として、自社で酒米を生産することが挙げられる。自社生産により、供給の安定化だけでなく、品質管理の強化やコストコントロールも期待できるため、酒蔵の経営基盤を強固にする可能性がある。さらに、自社で育てた酒米を使用することは、地域性や独自性を前面に押し出したブランド戦略にもつながる。自社での酒米生産を通じ、ブランディングに寄与している事例を紹介する。 (1) 白鶴酒造の例 白鶴酒造株式会社は2015年に農業法人である「白鶴ファーム株式会社」を設立し、10年以上の歳月をかけて独自開発した酒米「白鶴錦」の生産に力を入れている。同社が生産した「白鶴錦」を100%使用した日本酒『白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦』を上市した。原料である酒米の生産から酒造りまでを自社で一貫して手掛けることで、安定した品質と供給体制を実現していることを消費者に訴求している。 白鶴ファームが丹精込めて栽培した酒米を使用することで、従来の外部調達に頼る酒造りとは一線を画した新たなブランド価値を生み出している。さらに、『翔雲』はフランスで開催される日本酒コンクール「Kura Master」にてプラチナ賞を受賞する等、国内外から高く評価されている。同コンクールはフランス人ソムリエによる日本酒とフランス料理の相性を重視しており、欧州市場における絶好のアピールの場としても注目されている。 筆者が思うに、白鶴酒造の規模を考えると、全ての日本酒の酒米を自社生産に切り替えるのは栽培する土地や人材の確保から現実的ではなく、資本効率等の観点からも必要はないと考える。しかしながら、同社がこの問題を正面から捉え、単なる課題解決にとどまらず、自社のブランド価値向上につながる施策を積極的に展開してきた点は評価に値する。また、白鶴ファームの自社栽培による安定した良質の酒米の確保と、季節変動の大きい酒造業の雇用の安定化、圃場を維持確保することでの農業への貢献を目的としている点も、企業の社会的責任を果たす先進的な姿勢を示している事例だと考えられる。 図表4 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦 (出所)白鶴HP (2) 関谷醸造の例 白鶴酒造以外にも積極的に自社での酒米生産に取り組む事業者として、関谷醸造が挙げられる。同社は江戸末期の1864年に創業し、酒造りに必要な酒米の約20%を自社で栽培している。2006年に60aの小規模から開始した酒米作りは地域の遊休農地等を預かりながら、現在では約42haの規模にまで生産が拡大している。同社が位置する愛知県設楽町は標高700メートルの山間部に囲まれており、酒米の王様とも呼ばれている山田錦の栽培に向かないほか、中山間部のため栽培の効率化も難しい。こうした状況下であっても、愛知県で育成された「夢山水」を含む3種類の酒米を栽培し、ドローンやICT機器を活用する等、積極的にスマート農業を導入していき、省人化を実現している先進的な企業の一社である。また、同社では商品ごとに適した飲用温度をホームページ上で紹介し、日本酒に合う酒の肴レシピを紹介する等、日本酒の魅力を広く伝えるための広報活動にも力を入れている。 高齢化や後継者不足等の事情により離農する農家から農地を預かりながら、地域の農業を守り、日本の豊かな清酒を提供する同社はこれからの中山間地域で発展していく酒蔵の理想的なモデルと言える。 図表5 摩訶 関谷醸造 自社栽培米 (出所) 関谷醸造HPより 4.M&Aによる事業再編の可能性 第1章および第2章の通り、日本酒業界では事業環境が急速に悪化しつつあり、更には後継者不足が深刻な課題となっている。酒蔵の多くは創業100年以上の歴史を持ち、地域の顔役として長い歴史を誇っている。そんな酒蔵だからこそ、伝統を守りながらも経営継続が困難な状況に直面し、やむなく廃業を選択する酒蔵も増加している。しかしながら、長年にわたり築いてきた蔵元の歴史や、地域のファン、そして先代が大切に守ってきた酒造りの精神を途絶えさせることは、業界全体にとって大きな損失である。 そうした背景から、M&A(企業の合併・買収)は単なる経営戦略の一つにとどまらず、蔵元の伝統や想いを次世代へとつなげるための有効な選択肢として注目されている。新たな経営体制のもとで、これまでの技術やブランド価値を継承しつつ、より安定した経営基盤を築くことで、飲み手の期待に応え続けることが可能となることから、M&Aは先代の志を尊重しながらも未来へと歩みを進めるための重要な架け橋と言えるだろう。本章では、M&A実施時における売り手側・買い手側のそれぞれのメリット、デメリットおよび直近の取引事例を紹介する。 (1) 酒蔵のM&A実施における売り手、買い手のメリット、デメリット 酒蔵のM&A実施における売り手、買い手のメリット、デメリットは大別すると図表6に記載の通りである。 まず、M&Aという言葉を聞くと、売り手側はつい身構えてしまうことが多いが、一般的に多くのメリットが存在することを認識する必要がある。例えば、廃業してしまえば従業員の雇用を守ることは困難であるが、M&Aによって株式あるいは経営権を譲渡すれば、会社または事業という「箱」は存続し続けるため、従業員の雇用を継続できるほか、酒蔵やブランドを後世に残すことが可能である。もちろん、買収先によっては新たな販路の開拓も期待でき、ステークホルダーにとって非常に有益である。 また、経営者にとっても多くのメリットが存在する。具体的には、大手資本の傘下に入ることで個人保証や担保の解除が期待できるほか、株式譲渡に伴う譲渡益が発生する可能性もある。もちろん経営者が変わることになるので、今までの経営方針から大きく変わる可能性も存在する。また、株式譲渡における諸条件(売却金額、役職員の待遇等)が折り合わない可能性も充分にあり得る。しかしながら、こうした諸問題は株式を譲渡する前に買収側との面談を通じ、確りと売却先の選定を行い、諸条件を契約書に盛り込むことによって回避することは可能である。 次に、買い手側にとってもメリットは大きい。冒頭でも触れたとおり、日本酒の新規製造免許は需給の均衡を維持することを目的として、およそ70年にわたり0件である(酒蔵の移転等は除く)。国家戦略特区等の規制緩和に向けた検討はされているものの、仮に規制が緩和されたとしても、酒造りに必要な希少な人材の確保から生産設備の導入、取引先の開拓、ブランディングの対応が必要である等、新規参入のハードルは非常に高い。こうした背景があるため、買い手側にとって既存の酒蔵を買収する最大のメリットは最も迅速かつ確実に清酒業界に参入することが挙げられる。一方でデメリットとしては、全くの第三者が経営権を執ることになるので、従業員や既存の取引先といったステークホルダーから反発が生じる可能性がある。特に清酒造りにおいてキーマンとなる人材が辞めてしまうと、代わりの人材を探すことは非常に困難であるため、買収後の経営が立ち行かなくなる。そのため、売り手側、買い手側の双方から丁寧な説明が求められる。 図表6 酒蔵のM&A実施における売り手と買い手それぞれのメリット、デメリット (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2) 酒蔵の買収事例 上記の通り、酒蔵を買収することにより売り手、買い手の双方にとって多大なメリットが存在するため、近年は酒蔵業界でもM&Aが活発化している。本節では、酒蔵のM&A事例を取り上げ、その背景や狙い、買い手側の戦略について確認する。 (a) 地縁のある総合食品メーカーによる酒蔵の買収 2024年4月に醤油蔵を原点とする総合食品メーカーの株式会社久原本家グループ本社は300年以上の歴史を積み重ねてきた福岡県の蔵元である株式会社伊豆本店の株式を取得し、グループ会社の一社に迎え入れた。公表資料によると、久原本家グループの社主の母方の実家が伊豆本店と元々縁があり、業務上でも純米大吟醸の製造委託を行う等の関係性を構築していた。また、伊豆本店から経営相談を受ける中で、将来の発展的な事業展開が実現できるという点を双方が共有できたため、本件取引に至ったという。今後は久原本家グループの商品開発力を活用し、新規商品開発を目指していく方針である。また、久原本家グループが保有する販売チャネルでの商品展開の可能性も考えられる。 (b) 通信販売事業者による酒蔵のブランド価値向上 2023年6月に通信販売事業を手掛ける株式会社ベルーナは170年以上の歴史を積み重ねてきた岐阜県の蔵元である谷櫻酒造有限会社の株式を取得し、グループ会社の一社に迎え入れた。株式会社東京商工リサーチが実施した2023年度「国内日本酒通販市場シェアに関する調査」にて、ベルーナは通販国内売上高8年連続1位を獲得している。日本酒事業の成長にあたり、谷櫻酒造の子会社化は自社ブランドでの日本酒開発や、グルメ日本酒事業におけるブランド価値向上等、事業戦略の可能性拡大の観点から企業価値を高めるに資すると判断し、買収に至ったとされる。ベルーナの販売チャネルで谷櫻酒造の製品を販売することにより、これまで以上の販売数量の増加が見込まれる。 おわりに 「令和の米騒動」は、酒蔵の今後の経営を左右する重大な環境変化ではあるものの、一つの契機に過ぎない。というのも、もともと農家の高齢化や新規就農者の減少といった問題から、酒米の安定供給が脅かされるリスクは潜在的に存在していたことは充分に予見し得るものであった。一方で、酒蔵経営者が酒米の自社生産に二の足を踏むのは仕方がない側面もあった。過去、食糧管理法が施行されていた時代には生産した米を自由に使用することが出来なかった。同法が廃止された1995年には清酒の消費量が減少基調であったことから、酒米の自社生産を積極的に推し進めるのが難しかった側面がある。だからといって酒米の調達環境は改善することはなく、むしろ、異常気象による作物の生育不順や人件費や農業資材等の生産コストの高騰により、将来の不確実性がより高まっている。 こうした環境の変化を受け、清酒業界は単に現状に甘んじるのではなく、ユネスコの文化遺産登録や「パ酒ポート」、「ミス日本酒」といった新たな試みを通じて、積極的に日本酒の魅力発信や業界活性化に取り組んでいる。日本酒は日本を代表する文化の一つであるため、今後は酒米の入手経路の抜本的な改革や、自社ブランドの売却等、多角的な手段を講じながら、ぜひ後世にその価値を継承していってほしい。 野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部では、こうした酒蔵の経営課題の解決に向けた伴走支援や事業承継、資本・業務提携といった分野において、専門的なサポートを提供できる体制を整えている。業界全体の今後の発展に向けて、ぜひ私たちもお力添えができれば大変嬉しく思う。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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07/01 11:25
グローバルサウスの台頭とフード&アグリビジネスの可能性(後編)- 日本企業とGS諸国の「共創」戦略:持続可能な未来を築く食料×脱炭素イノベーション-
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 コンサルタント 中村 圭吾(2025年7月15日) はじめに 前編[1]では、欧米をはじめとする先進国とは異なる第三の勢力として台頭するグローバルサウス(以下、GSと称する)の背景と、フード&アグリ分野においてGS諸国が共通して直面する課題を整理した上で、それら課題の解決に挑むGS発のスタートアップを紹介した。 本編では、GS諸国間の文化的・社会的多様性から生まれる課題やニーズを踏まえつつ、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、二国間が共同で新たな価値を創出していく「共創」を推進するための日本政府や政府系機関の政策や支援スキームと、それらのスキームを活用しながらグローバルな食料安全保障や環境問題の解決に取り組む日本企業の具体的な事例に焦点を当てる。その上で、「共創」の意義と今後の展望について考察を深めていく。 1. グローバルサウス諸国との「共創」を通じた社会課題解決 深刻化する地球規模の課題や紛争への対応は、一国だけでなくGS諸国との協力が不可欠である。GS諸国は、歴史・文化や経済状況が多様で、都市化や高齢化、インフラ不足、食料や医療の脆弱性、気候変動問題等それぞれ異なる課題を抱えている。一方、日本もまた人口減少や労働力不足、資源の輸入依存等の課題が山積しており、GS諸国の成長と活力を活かすことが今後の日本国内の課題解決や成長に直結する。 日本政府は、2024年6月に「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」を策定し、①日本の国益増進、②GS諸国との対等なパートナー関係の構築、③国際社会の協調促進を掲げており、具体的な方策として、多様なGS諸国の実情に応じた柔軟なアプローチ支援を明示している[2]。また、2024年12月発表の「インフラシステム海外展開戦略2030」でも、①GS諸国との「共創」による国際競争力強化、②経済安全保障への対応と国益の確保、③GX・DX等の社会変革への機会活用を柱として、GS諸国との「共創」を推進している[3]。 2. 日本政府、政府系機関、地方自治体、民間団体の支援メニュー 日本政府は、政府横断的な体制のもと、日本企業のGS諸国へのビジネス展開を多面的に支援している。2022年に設置された内閣官房・海外ビジネス投資支援室では、各省庁・関係機関と連携して海外ビジネスの準備段階から拡大段階に至るまでの4つのフェーズに対応した支援策を提供しており、日本企業が海外展開に必要な情報や制度を効果的に活用できる体制を整備している(図表2-1)。 図表2-1 海外ビジネス投資支援メニュー一覧 (出所)内閣官房海外ビジネス投資支援室の公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部一部加工 フード&アグリ分野の日本企業のGS諸国へのビジネス展開を支援する主要なスキームとしては、農林水産省や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)をはじめとした各省庁・関係機関より、多様な制度が提供されている。ここでは特に支援件数が多い、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(通称、グローバルサウス補助金)」及び国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」について紹介する。 グローバルサウス補助金は、GS諸国が抱える社会課題を、日本企業がビジネスを通じて解決することを支援するための制度である。令和5・6年度補正予算において合計約2,900億円が計上されており、小規模案件を対象とする「FS事業/小規模実証[4]」と、大規模インフラ整備等を含む「大規模実証[5]」の2区分で幅広く支援を実施している[6](図表2-2)。「グローバルサウス補助金」の2024年度の採択状況は、「FS事業/小規模実証」では、計3回の公募で490件の応募に対し226件が採択され、採択率は46%であった。一方、「大規模実証」では、対ASEAN諸国対象事業として年間38件の応募に対し20件が採択され、採択率は52%であった。 これに対し、JICA Bizは、開発途上国の課題解決と日本企業の海外ビジネス展開を同時に支援することを目的としており、企業側の費用負担や調整コストが少なく、JICA選定のコンサルティング会社によるハンズオン支援および対象国・地域のネットワーク活用を特徴としている(図表2-2)。JICA Bizは、企業規模やビジネスモデルの構築段階に応じて「ニーズ確認調査」と「ビジネス化実証事業」のスキームに区分され、「ニーズ確認調査」は1件あたり上限1,500万円、「ビジネス化実証事業」は1件あたり上限4,000万円が支給される。2024年度の採択件数は、両スキーム合わせて計57件で、うち約95%が中小・中堅企業向けの支援となっていた。 グローバルサウス補助金とJICA BizはそれぞれGS諸国とのビジネス連携や「共創」を促進する重要な支援ツールである一方で、支援額や対象企業、負担率、その他の支援内容に相違があるため、応募企業は自社の事業規模、戦略、資金状況を踏まえ、両スキームのメリット・特徴を考慮した最適な支援制度を選択することが重要である。 図表2-2 グローバルサウス補助金とJICA Bizの比較 (出所)経済産業省とJICAHPの公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3. GS諸国とのフード&アグリ分野での「共創」トレンド 日本政府は、GS諸国との「共創」において、フード&アグリ分野を重点政策の一つと位置づけ、「グローバルサウス諸国との連携強化」や「インフラシステム海外展開戦略2030」でも、食料サプライチェーンの強化や農業由来の温室効果ガス(GHG)削減、持続可能な農業と農業生産者の所得向上を目指す方針を示している。また、農林水産省は、新たに、2025年5月に「農林水産分野GHG排出削減技術海外展開パッケージ(MIDORI∞INFINITY)」を発表し[7]、日本発の技術を整理・明確化した上で、これらの技術を持つ日本企業や研究機関のグローバル展開を推進している。 フード&アグリ分野の日本企業は、これまで紹介した政府機関の各種公的支援スキームを活用しつつ、GS諸国への進出を積極的に進めており、同分野における「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」の2024年度の採択実績は計76件(「グローバルサウス補助金」59件、「JICA Biz」17件)に上る。本章では、これらのデータから見えてくる同分野の日本企業のGS諸国での進出地域や活用アプローチの傾向を整理した。 (1)フード&アグリ分野における日本企業によるGS諸国の進出地域 東南アジアは経済成長が著しく、日本企業の事業展開が活発であることから、「グローバルサウス補助金」34件、「JICA Biz」8件と両スキームで最多の案件が採択されている(図表3-1)。アフリカも成長ポテンシャルが高く、両スキームで一定数の案件が進んでいる。南アジアや南米は大規模事業を中心に「グローバルサウス補助金」の採択が多い一方、「JICA Biz」の採択は少数である。両スキームは地域の経済状況や企業活動に応じて柔軟に活用されており、GS諸国への進出において補完的な役割を果たしている。 図表3-1 「グローバルサウス補助金」と「JICA Biz」のフード&アグリ分野におけるエリア別採択件数(2024年度) (出所)経済産業省とJICAHPの公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)日本発イノベーションの主要トレンド フード&アグリ分野における日本企業のGS諸国への主要なアプローチを以下5つの【A】から【E】のカテゴリーに整理し、さらに、前編にて取り上げたGS諸国の共通する5つの課題(【1】食料安全保障の脆弱性、【2】GHG排出と気候変動への対策不足、【3】労働力と人的資源の制約、【4】技術導入のための資金力不足、【5】市場アクセスの困難さ)に対する貢献度を示した(図表3-2)。 図表3-2 GS諸国への主要なアプローチとGS諸国の社会課題に対する貢献 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 【A】 スマート/デジタル技術導入 IoT、AI、ドローン、ナノバブル発生装置等の先端技術を農林水産業分野に導入し、作物の生育状況や家畜の健康状態をリアルタイムで詳細に観測・解析することで、生産性や品質の安定化を図っている。本アプローチは、例えば、ウクライナでのナノバブル技術を用いた農業再生支援や、ベトナムでの水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の導入、インドネシアのAI解析による水産資源管理等、各国の多様な農業生産の環境にて適用されている。 【B】 持続可能な農業と気候変動への適応強化 地球温暖化対策として節水農法や農業廃棄物を利用したバイオ炭の生産等、低炭素農業への技術導入も活発である。また、これに関連して、導入した技術によるGHG排出削減を評価し、その削減量の取引を可能とする二国間クレジット制度(JCM)[8]も含めたカーボンクレジットに関する取り組みも注目されている。実際に、フィリピンではJCMを活用した節水稲作、タイではバイオ炭活用による水田のGHG排出削減、ブラジルでは下水汚泥を活用したバイオ炭活用に関する調査がそれぞれ行われている。これらの取り組みは、気候変動への対応策や適応策となるだけでなく、グリーントランスフォーメーション[9](GX)推進の一環として、持続可能な農業の推進にも貢献する。 【C】 バリューチェーンの構築・強化 農産物や畜産物の品質向上と加工・流通の効率化に対する取り組みも重要である。例えば、タンザニアにて、コメ及び穀物の品質向上・収穫後ロス低減の為の高精度水分計の導入調査が進められている。また、ベトナムでの農業機械導入による水田間作[10]の促進も挙げられる。バリューチェーンの構築・強化関連では、ベトナムの高品質・低炭素米、ブラジルの大豆・トウモロコシやタイでのバナナに関する事業も実施されている。これらの活用は、農業生産者の所得向上や地域経済の活性化、そして日本企業の現地との連携促進による新たな市場の創出にも貢献することが期待されている。 【D】 未利用資源・食品廃棄物の資源化促進 未利用資源や食品廃棄物をアップサイクル[11]し、バイオ燃料や肥料、更には工業用の新素材に再生する取り組みも注目されている。具体的には、マレーシアにおける食品廃棄物の低温炭化装置の開発やパーム農業残渣のバイオマスへの利用、モザンビークでのジャトロファ[12]を活用したバイオ燃料のサプライチェーン構築、ネパールでの有機廃棄物のコンポスト[13]への再資源化に関する取り組み等が実施されている。農業由来の廃棄物を単なるゴミとして捉えるのではなく、価値ある資源として循環利用することは、環境負荷の軽減、地域経済の活性化、そして循環型の持続可能な農業システムの構築に貢献している。 【E】 バイオテクノロジーや新技術の活用 バイオテクノロジーを活用した農業生産性の向上や新資材や代替製品の開発が進んでいる。例えば、ベトナムでの植物成長促進剤(バイオスティミュラント[14])を使用した環境ストレス耐性のあるコメ生産に関する調査が行われている。また、タイでは、非可食糖を利用した人工タンパク質粉末の製造、微細藻類を用いた産業排ガスのCO2固定化技術の開発も実施されている。また、これらの新技術は、農業生産を支援するだけでなく、食料の多様化や環境負荷の軽減にも貢献し、イノベーションへのニーズが大きく、先進国に比べて法律や制度も十分に整備されていないGS諸国でこそ実用化が早く進む可能性が高く、新産業への発展としても期待されている。 4. GS諸国が抱えるフード&アグリ分野の課題解決に挑戦するスタートアップの事例紹介 前章にて、GS諸国が抱えるフード&アグリ分野に関連した課題解決に挑戦する日本発の技術やアプローチのトレンドを整理した。本章では、実際に自社が持つ技術・製品を通じて、GS諸国との「共創」に取り組む日本発のスタートアップを3社紹介する。 (1)高機能バイオ炭で拓く持続可能な農業と地球・宇宙の未来 株式会社TOWINGは、「サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会を実現する」をミッションに、2020年2月創業の名古屋大学発のグリーン&アグリテックスタートアップである。地域の未利用バイオマスの炭化物に独自に選別・培養した土壌由来の微生物群を付与する技術を用い、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)[15]」を開発・製造・販売およびそれに関連する技術サービスの提供を行っている。宙炭は農地の土壌肥沃度向上や作物の品質改善、収穫量増加に貢献するほか、GHG排出削減や資源循環の促進にも寄与する。同社は、これまで累計約29.5億円の資金調達を実現し、高機能バイオ炭に関する更なる研究開発および国内製造拠点の拡充、そして海外事業拡大に向けた体制構築を進めている。 同社は、グローバルでも存在感を強めている。2025年4月には、International Biochar Initiative(IBI)[16]と共同で、日本国内で初となる国際的なバイオ炭カンファレンスを主催し、グローバルで盛り上がりを見せる「農業×バイオ炭市場」を主導している。また、GS諸国における事業展開では、「グローバルサウス補助金」を活用し、タイにて微生物培養プラントの現地実装及び大型化プロジェクトを開始している。また、ブラジルではJICAや農林水産省と連携しながら、劣化牧草地の再生に向けた高機能バイオ炭の適用可能性や実証栽培の検証を行い、現地の研究機関との連携強化を図っている。これら国内外の活動を通じて、同社は、現在グリーン&アグリ領域のプロフェッショナルカンパニーとして、グローバルな食料問題の解決に挑戦している。 図表4-1 タイ・カセサート大学との研究協力の調印式 (出所)株式会社Towing提供 (2)衛星×AIで環境負荷削減の推進と農家の所得向上に挑戦 サグリ株式会社は、2018年に設立された岐阜大学発のスタートアップとして兵庫県丹波市に本拠を置き、衛星データと人工知能(AI)を活用して農地解析と営農支援を行っている。創業者の坪井氏は、2016年にルワンダで親の手伝いのために農業に従事し学校に行けない子供たちの現状に衝撃を受け、宇宙分野の知識を活かして非効率な農業生産の課題解決を 目指し同社を設立した。現在、同社は、国内外で衛星データや土地区画データをもとに独自技術で農地の見える化を実現し、耕作放棄地の検出、作物分類の推定、農地と人をつなぐマッチング、といった4つのサービスを軸とした農地の効率的活用や営農支援を行っている。 特に持続可能な農業と食料生産体制の構築、そして脱炭素社会の実現に向けて、海外でも、これまでアジアやアフリカ等、14カ国で事業を展開し、計10万を超える農家にサービスを提供してきた。AIにより収集・解析した衛星データをもとに、化学肥料から有機肥料への転換による亜酸化窒素の排出削減や、間断灌漑技術[17](AWD)を用いた水田からのメタン排出削減を通じたカーボンクレジット創出事業にも着手している。2024年11月からは、カンボジア・プルサット州にてAWDの実証実験を開始し、農家の所得向上と持続可能な農業の実現を目指している。さらに2024年も、VCやCVC、事業会社等から約10億円を調達し、これを背景に海外展開を加速させており、GS諸国での事業強化を進めている。「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」も活用し、中南米地域にて日系移民社会での営農最適化、肥料コストの削減、そしてカーボンクレジット創出による所得向上にも取り組んでおり、日本発ベンチャー企業として世界に飛び出し、農業の環境負荷低減や持続的社会の実現に向けて取り組んでいる。 図表4-2 現地の「共創」パートナー達と坪井代表 (出所)サグリ株式会社提供 (3)現地の植生を活かしたバイオ燃料開発 日本植物燃料株式会社は、2000年に設立され、アフリカ・モザンビークにて電子農協[18]基盤「Agroponto」の開発・運営を手掛け、小規模農家の組織化と農家の市場アクセス改善、生計向上を図ってきた。さらに同社は、農作物取引の電子化により公正で記録可能な取引プラットフォームを構築し、NFC[19]カードを用いた電子バウチャー事業で物資配布や購入補助金管理の効率化を図り、地域の農業基盤強化に貢献してきた。 同社は、20年以上に渡りモザンビークにて、ジャトロファ[20]を活用したバイオ燃料の研究開発と生産にも取り組んでおり、現地の農業発展と環境保全を両立させる持続可能なバイオ燃料事業を推進している。ジャトロファは乾燥や過酷な環境に強い非可食作物であり、食料生産と競合せずに栽培可能であることから、地域の荒地緑化やフェンス植樹、剪定枝や搾油残渣のバイオ炭活用による土壌改良等、多角的な用途・機能がある。研究を重ね、在来種と比べて約50倍の収量を誇るジャトロファ品種の開発に成功している。 現在、同社は、「グローバルサウス補助金」も活用しながら、モザンビーク北部のナカラ港からマラウイ、ザンビアへと繋がるナカラ回廊沿いにて、高収量品種のジャトロファを栽培し、バイオ燃料として供給している。それにより海事海運産業の脱炭素化、農家の所得向上、そしてアフリカ地域の社会経済基盤の強化を推進している。年間40万トンのバイオ燃料生産を目指しており、この生産量は、日本国内で1年間に回収される廃食油の総量に匹敵する。さらに、同社は、搾油後の残渣等のバイオマスを活用してカーボンクレジットの創出も目指しており、これにより年間最大800万トンのCO₂排出削減・除去が可能となる。 図表4-3 現地の社員と対話する合田代表 (出所)日本植物燃料株式会社提供 5. 日本企業がGS諸国にて持続的なフード&アグリ分野の事業展開を実現するための考察 最後に、これまでの内容を踏まえて、筆者が考える、日本企業がGS諸国に進出し、持続可能かつ効果的な事業展開を実現するための要諦として、以下の3点を提言したい。 (1) GS諸国を対等なパートナーとして捉えた「共創」に基づく事業モデルの構築 現地の文化や慣習、ニーズを深く理解し、信頼関係を築ける適切なパートナーの発掘・連携が不可欠である。GS諸国は文化・社会・経済環境が多様であり、スケジュール感や根回しといったビジネス上の慣習やSNSやメール等のコミュニケーション手段の違いから、日本流の考え方や仕事の進め方がそのまま通用しない場合が多い。特に、日本国内でよく見られる「阿吽の呼吸」による暗黙の了解や非言語的な意思疎通は、文化や言語の異なるGS諸国では通用しづらいため、一層明確かつ丁寧なコミュニケーションが求められる。したがって、一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、その歴史や文化、慣習、価値観を十分に理解し、相手の視点やニーズに立脚した現地化された事業モデルの構築が求められる。 特に、フード&アグリ分野においては、現地パートナーは地域の文化・慣習、農業技術、気候条件、市場環境を熟知しているだけではなく、行政機関や農家団体、流通業者等との強いネットワークを有しており、これらを活用することで市場参入や事業拡大が迅速に進められる。前章で紹介した各企業も、現地の研究機関や政府機関と連携し、社会課題とニーズに適合した技術実証と事業展開を進めることで、地域に根ざした課題解決に挑戦している。こうした双方向の対話を通じて、現地パートナーと信頼関係を築き、ともに課題解決や価値創出に取り組む「共創」による事業展開こそが、持続可能で実効性の高い成果を生み出す鍵である。 (2) GS諸国の「サンドボックス」としての活用とリバースイノベーションの展開 GS諸国ではイノベーションへのニーズが高く、先進国に比べて法律や制度が十分に整備されていないため、規制の制約をあまり受けることなく先端技術の実用化が比較的早期に進みやすい。また、現地の労働コストや運営コストが先進国と比較して相対的に低い点も大きな特徴である。フード&アグリ分野の先端技術は、研究開発から商業化に至るまでに規制当局や利害関係者との調整、高額な資金調達が必要となることから、一般的には約10年以上、早くとも5年程度の期間がかかる。このため、日本企業はGS諸国を「サンドボックス」[21]として活用し、先端技術の実証や大規模なフィールドテストを実施することで、日本国内や他の先進国と比較して、比較的少ない資金かつ短期間での商業化や事業拡大を実現できる。さらに、多様な現地の課題やニーズに適合させて実用化した社会課題解決型の技術・製品・サービスは、他のGS諸国への横展開にとどまらず、「リバースイノベーション」として、規制が厳しい日本を含む先進国にも導入可能であり、新たなイノベーションの種を生み出すことができる。前章で紹介したサグリ社も、衛星データやAI技術を活用してGS諸国の農業効率化と持続可能性の向上に取り組むと同時に、そこで得られたノウハウや知見を日本国内の持続可能な農業モデルの創出に活かしている。このように、GS諸国は技術実証の場としてだけでなく、グローバルなイノベーション創出の重要な拠点であり、日本企業にとっては競争力強化と事業成長を加速させる戦略的な舞台であると言える。 (3) 公的支援制度の効果的な活用による事業推進 「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」等の公的支援制度は、支援金額や対象企業、負担率、コンサルティング支援の有無等、支援内容に違いがあるため、応募企業は自社の事業規模や戦略、資金状況を踏まえ、これらを含む多様な公的支援制度を適宜活用・乗り換えながら、最適な制度を選択することが重要である。また、公的支援の利点は金銭面にとどまらず、現地の日本国大使館やJETRO事務所、JICA事務所が有する人的なネットワークも活用できる点も強調したい。これらの機関は、GS諸国のフード&アグリ分野に関連する政府機関や民間企業と関係を築いており、信頼できる現地パートナーや事業推進に必要なキーパーソンの紹介を通じて、現地での事業の認知度向上や規制対応、ネットワーク形成を後押しすることが可能である。さらに、フード&アグリ分野では、農林水産省、経済産業省、JETRO、JICAをはじめとする公的機関が、毎年企業派遣ミッションを通じて、現地パートナー企業とのマッチングの機会を提供している。前章で紹介した各企業もまた、GS諸国で出会った人や課題に対する原体験をきっかけに、GS諸国との「共創」の事業に取り組んでいる。GS諸国への進出を目指す日本企業は、このような機会を積極的に活用しつつ、公的支援制度による資金面でのメリットを享受するとともに、各機関が有する豊富な人的資源を効果的に引き出すことが、事業展開を円滑に進めるうえで極めて重要な成功要因となる。 おわりに 日本の食料自給率は、カロリーベースで40%を下回っており、また労働者人口も年々減少しており、食料安全保障のみならず、日本という国を存続させるためにはGS諸国を含めた他国との共存が不可欠となっている。そのような中、日本がGS諸国から「選ばれる」ためには、一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、相手国の内なる声に耳を傾け、日本発の技術をGS諸国に展開していくことが重要である。今回事例として紹介した3社に加えて、フード&アグリ分野で先進的にGS諸国と「共創」に取り組む日本企業は多く存在する。また、日本企業がGS諸国で持続的に事業を展開していくためには、数年単位の事業への投資コミットメントが必要となるため、あらゆる角度から公的支援制度を効果的に活用しながら、継続して事業に取り組むことが必要と考える。 [1] 「グローバルサウスの台頭とフード&アグリビジネスの可能性(前編) - グローバルサウス諸国のフード&アグリ分野の課題 -」野村證券HP (https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/fabc/data/20250618_2.pdf) [2] 「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針 概要」内閣官房HP (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kaigai_business/pdf/gsc_summary.pdf) [3] 「インフラシステム海外展開戦略2030」首相官邸HP (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai58/siryou6.pdf) [4] 「実証」は設備や装置の導入を伴うもの、「FS(フィージビリティ・スタディ)」は伴わないものという区分けになっている。 [5] 「大規模実証」は、さらに対東南アジア諸国連合(ASEAN)[5]加盟国と対非ASEANに分けられる。 [6]また、令和6年度補正予算から、ウクライナ現地及び周辺国の破壊されたインフラ再建やエネルギー供給等による復興を支援するために、「ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化」スキームも追加されている。その他、委託事業として、対象国・地域の長期的な発展を計画的に進めるための包括的な計画「マスタープラン」の策定事業も実施している。 [7] 「農林水産分野GHG排出削減技術海外展開パッケージ 概要」農林水産省HP (https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/attach/pdf/250530-9.pdf) [8] 途上国等への優れた脱炭素技術等の普及や対策実施を通じ、実現したGHG排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の国別削減目標(NDC)の達成に活用する制度。 [9] 化石燃料中心の社会から脱炭素社会に向けて再生可能なクリーンエネルギーに転換していく取り組みのこと。 [10] 水田で稲の収穫後に他の作物を栽培する農法。 [11] 廃棄物等を単にリサイクルするのではなく、元の素材や製品よりも高い価値や品質のある新しい製品や材料に変換・再利用すること。 [12] 熱帯地域を中心に自生・栽培される植物で、種子に含まれる油脂からバイオディーゼル燃料を生産できることから、再生可能エネルギー資源として注目されている。 [13] 生ゴミや農業廃棄物、落ち葉等の有機廃棄物を微生物の働きで分解・発酵させて、土壌の肥沃度を高める肥料(堆肥)に変える自然循環の技術。 [14] 植物の成長を促進し、ストレス耐性や栄養吸収効率を高めるために使用される天然由来の物質や微生物製剤。 [15]「 宙炭」は、TOWINGの独自前処理技術と微生物培養技術を農研機構の技術と融合して開発した土壌改良資材である。土壌の健康を改善し、化学肥料削減や有機転換を促進するとともに、作物の品質・収量向上に寄与する。一般的なアルカリ性バイオ炭とは異なり中性に近いため、単独使用でも作物が良好に育つ特徴を持つ。さらに、地域の未利用バイオマスのアップサイクルや農地での炭素固定を通じて温室効果ガス削減を可能とし、環境再生型(リジェネラティブ)農業の推進に貢献する革新的なソリューションである。 [16] バイオ炭の研究・開発・普及を推進するアメリカの非営利団体。 [17] 水田に水を張る湛水(たんすい)と、水を抜く落水を繰り返す農法で、栽培期間中に土壌を適度に乾燥させることで、水の使用量を削減するとともに、田んぼからのメタン排出を抑制する農業技術。 [18] 「電子化された農業協同組合」のことであり、農業協同組合(農協)の業務やサービスをデジタル技術やICT(情報通信技術)を活用して効率化・高度化した仕組みや組織を指す。 [19] 近距離無線通信技術の一つで、数センチ程度の近距離でデータの送受信を行うことができる規格。スマートフォンやICカード等の間で非接触にて通信が可能で、決済や認証、情報交換等、幅広い用途に使われている。 [20] トウダイグサ科に属する耐乾性の高い非食用の植物で、主に熱帯・亜熱帯地域で栽培されている。種子には高い油分を含み、持続可能なバイオ燃料の原料として注目されている。 [21] 新規事業や革新的なサービス・技術を、既存の規制や制約を一定期間・限定的に緩和した環境下で試験的に実施できる制度や仕組み。 ディスクレイマー 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生物多様性と今後の企業の在り方(後編)
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニアコンサルタント 遠藤 暁(2025年7月15日) 前編では、ハーマン・デイリーのピラミッドを用いて社会全体における自然資本の位置づけを確認し、生物多様性に関する歴史を概観した後で、一つの分かりやすい例として、森林・林業・木材産業と生物多様性の関連を取り上げた。後編では、企業側の視点、つまり企業の社会的責任の変遷からスタートし、国際的な枠組みの例としてエクエーター原則や世界銀行EHS(環境・衛生・安全)ガイドラインなどを概説し、非財務情報開示の関心の高まりに触れて、今後の企業経営における生物多様性の重要性を述べる。 1.企業の社会的責任(CSR)と生物多様性 1) 生物多様性を企業の社会的責任とした提言の系譜 戦後、日本経済の再建・復興を目的に設立された日本経済団体連合会(以下、「経団連」という)は、1973年に企業の社会的責任について、「福祉社会を支える経済とわれわれの責任」という提言を行っている。企業は経済活動だけでなく、社会全体に責任を負うという考え方を示したもので、以後のCSR活動の第一歩となった。その後、1991年に「経団連地球環境憲章」を発表し、前編で述べたハーマン・デイリーのピラミッドにおける自然資本の位置づけにつながる基本理念がうたわれている。 経団連地球環境憲章基本理念(一部抜粋) 「企業の存在は、それ自体が地域社会はもちろん、地球環境そのものと深く絡み合っている。その活動は、人間性の尊厳を維持し、全地球的規模で環境保全が達成される未来社会を実現することにつながるものでなければならない。」 さらに、2003年に「日本経団連自然保護宣言」が発表され、ここで生物多様性の保全ということが明確に示された。考え方としては、20年以上前に示されており、ここ数年で出てきた言葉ではないことが分かる。 日本経団連自然保護宣言(一部抜粋) 「私たちは、私たちを取り巻く大気圏や生物圏、あるいは水の循環圏などについて、一層理解を深めるとともに、人類にとって多様な生物が共存することが、豊かな生活環境をもたらすものであることを改めて認識し、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進する必要がある。」 企業の社会的責任は、1990年代にはメセナ(文化貢献活動)と結び付けられてきたが、2000年代に入り、ESG(環境・社会・ガバナンス)という考え方が台頭してくる。その起源は実際には古く、1920年代に宗教上の理由からタバコ、アルコール、ギャンブルなどの業界への投資を禁止したことが始まりと言われている。その後、国際金融公社(IFC)が2004年に発表した「Who Cares Win」という報告書の中で用いられたことで広く知られるようになり、2006年の国連の責任投資原則(PRI)で一般化した。図表1の通り、責任投資を行う際に考慮すべきESG課題の環境分野に生物多様性が含まれている。 図表1 責任投資を行う際に考慮対象となるESG課題 (出所)国際連合「責任投資の入門ガイド」 ESG投資は、投資家が投資先の財務情報以外にESGの取り組みを評価して選別し、さらにその継続を促していくもので、ESGに取り組む企業は、取り組まない企業に比べて長期的なリターンを大きいとする評価が多くされてきた。生物多様性あるいは自然資本と直接関係するのは、上記ESG課題のうち環境の部分であるが、それを実践していく中では、多様性の確保や社会課題の解決意識の醸成、ガバナンスの強化などのESG課題全てが企業価値を押し上げていると言える。 2)プロジェクトファイナンスにおける生物多様性の保全の考え方 次に、プロジェクトファイナンスにおいて金融機関に課されるエクエーター原則を取り上げる。まず、プロジェクトファイナンスとは、発電や鉱物資源開発などの個々の「プロジェクト」に対して、その事業性に依拠してファイナンスを行う取引を指す。通常の事業法人向け融資取引と大きく異なる点は、一般的に第三者保証は求めず、プロジェクトが保有する資産以外の担保も求めない点である。大規模なプロジェクトファイナンスでは、複数の国際金融機関が協調して融資を行うケースが多く、その際にプロジェクトの事業性を財務的な観点から定量的に審査することに加えて、エクエーター原則に則った定性面の審査も行われる。 エクエーター原則では10の原則が定められており、その中の原則2「環境・社会アセスメントの実施」に、生物多様性の保護と保全が潜在的な問題の一つとして挙げられている。一例として、北海道の天然記念物であるオオワシやオジロワシの生息が確認されている地域における風力発電所建設プロジェクトを挙げると、風車へのバードストライク防止などの措置がされていない場合は、融資を行わないといった対応がされる。当然ながら、資材搬入用の道路建設などでも森林伐採への配慮が求められると同時に、先住民族であるアイヌ民族への配慮も必要となる。 また、プロジェクトファイナンスでは、世界銀行グループ環境・衛生・安全(EHS)ガイドラインに従うことが求められるケースが多い。特に、各国の輸出信用機関や政府系金融機関と協調融資を行う際は、EHSガイドラインを遵守することが必須である。EHSガイドラインは、環境、衛生、安全に関する技術文書であり、一般的事項とセクター別事項に分けられており、プロジェクトの内容によって、従うべき環境汚染基準などが定められている。このガイドラインの中では、生物多様性について明確には述べられていないが、大気汚染や水質汚染の基準値や対策手法、モニタリング手法などが記されており、間接的に生物多様性の保護を求めている。こういったガイドラインを工場の新設などにおいて参考にすることも、企業の社会的責任を果たす手段として考えられる。 3) SDGsにおける生物多様性保全活動 2015年に国連で採択されたSDGsは、かなり一般にも浸透してきた。17の原則のうち、14「海の豊かさを守ろう」と15「陸の豊かさも守ろう」の二つが生物多様性に直接関係しており、各企業においても、例えば海洋プラスチック問題解決のために脱プラスチックを進める、あるいは、社有林における生物種の調査を行うなどの動きが見られ、CSR報告書で開示する例も増えてきている。幼稚園や小学校でもSDGsに関する教育が行われており、環境保護への高い意識が醸成されて大人になった新しい世代が10年後あるいは20年後に、商品開発や経営企画などの分野で、当たり前のように生物多様性に配慮したビジネス活動をしていくように変わっていくだろう。 企業の社会的責任という観点からの生物多様性は、PRI、ESGからSDGsに至り、個人レベルの意識まで浸透してきた。社会全体をより良い方向へ変えていこうという動きの根本には、自然資本という考え方が明示的、非明示的に含まれている。誰もが感じる便利なモノが売れる時代はとうに過ぎ去っており、生活を豊かにするモノ、あるいは社会にとって良いモノが売れる時代へ変化している中で、自然資本を重視し、生物多様性に配慮することは、ヒトとして当然であり、企業活動においても根本となっていくと考えられる。 2.生物多様性に配慮したこれからの企業の在り方 1) 自然資本をベースとした経済活動原則 本稿で繰り返し述べてきた通り、人々の生活やビジネスなどあらゆる活動は、自然資本の上に成り立っている。温室効果ガスの増加など人為的な影響による洪水や大雨などの自然災害が顕在化したことで、ようやく自然資本あるいは生物多様性の保全の重要さが理解されてきた。これからの企業の在り方としては、この重要性を改めて認識し、ビジネスを組み立てていく必要性がある。日本の企業は、2度の石油ショックなどから、省エネを中心としたノウハウや技術の蓄積が他国に比べて多い。また、プラスチック製品や金属缶をはじめとする原材料として用いられる素材のリサイクル比率も高い。こういった取り組みは国内では当たり前のように理解されているが、他国と比較すれば、大きなアピール材料になる。日本企業の強みとして真摯にアピールすることはもっと行ってよいのではないかと筆者は考える。 生物多様性に配慮することは、その他の社会的責任とも密接に関係する。自然資本という共通の土台があること、また異質なものへの共感や自然への畏敬と言った点で、人権擁護やLGBTQ+の理解などにもつながっていく。生物多様性を出発点として、自らを取り巻く全方位への感謝や他者の尊重という意識を醸成する効果がある。生物多様性への配慮から、自然に触れ合うことに興味、関心が高まり、森林浴やハイキングなどを通じて、メンタルヘルスやストレス軽減へ役立ち、退職者の減少や定着率の向上など、経営にとって具体的なプラスの影響も期待できるだろう。 2) 商品・サービスへの新たな付加価値となる生物多様性 また、消費行動の大きな変化にも対応が必要である。大量生産大量消費の時代では、顧客は企業が生産する製品・サービスを受け取るだけであったが、様々な製品・サービスが普及してくると、今度はその内容や充実ぶりに目が向くようになり、さらに最近では、パーソナライズされた製品やサービスが求められるようになってきている。そして、製品やサービスが多様化し飽和する中で、顧客が企業を選ぶ時代に入ってきている。このような環境下で、重要となってくるのが、どういった価値を提供するか、という点である。機能やデザインといった点は、既に差別化できる要素ではなくなりつつあり、社会的な価値、つまり自然資本の重要性や生物多様性への配慮といった、ある意味でより高次元な価値を提供していかなければならない。これまでは、企業から顧客への一方向へのコミュニケーションであったが、これが双方向になり、今後は逆に顧客から企業へのコミュニケーション、あるいは選択といった動きが出てきている。特に消費者に近い企業であればあるほど、顧客の期待値の一歩先を行く意識を高くもつ必要がある。例として、アパレル業界では、スニーカーにリサイクル素材を使ったことをうたった製品が増えてきている。また、ジーンズでも、綿花の生産国、紡績工場、織物工場、縫製工場をジーンズ一本一本のポケット裏に印刷し、トレーサビリティを明示しているケースがある。 SNSにより、企業と顧客のコミュニケーションコストが大きく低下している現在、戦略的にマーケティングを行っていく必要がある。変に取り繕った映像などは、すぐに見破られ、企業イメージを破壊することにつながりかねない。大々的なCMや作られたイメージではなく、企業の真の姿をありのまま伝えることが必要だろう。そして、ありのままの状態でしっかりと生物多様性あるいは社会的責任を果たしていることが重要である。 図表2 企業と顧客のコミュニケーションの変化 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3) 企業への共感を呼ぶ非財務情報の開示 社会的責任の取り組み状況のような、財務諸表に数値として現れにくい情報は非財務情報と言われ、企業価値を多角的に評価する上で、その重要性が注目されている。上場企業のみではなく、非上場、中小企業についても、広く非財務情報の開示を促していく動きが出てきている。メガバンクや地銀が中心となって2023年8月に設立された一般社団法人サステナビリティデータ標準機構は、中小企業向けの非財務情報の開示の羅針盤を提供する目的で、2024年2月に「非上場・中小企業向けサステナビリティ情報の活用ハンドブック」を発表している。この中では、企業が段階的に取り組みやすいように、入門、基本、応用の3区分で開示する情報の例示や、モデル事例集などを示している。非上場、中小企業であっても、例えば経済産業省の地域未来牽引企業に選定されている企業などは、非財務情報を開示することで、よりステークホルダー全体へのアピールとなり、従業員の満足度向上や取引拡大による地域経済のさらなる活性化など、企業内外へプラスの影響を及ぼすことが出来る。 3.おわりに 生物多様性については、言葉が先行し、何をどうしたらよいか、分かりにくいと考えている人が多い。しかし、前編で取り上げたハーマン・デイリーのピラミッドの通り、全ての企業活動は自然資本の上に立っている、と考えれば、自社のビジネスにおいて自然と接点をもつあらゆるプロセスにおいて、自然資本を尊重することが必要だということは自明だろう。出来るところから始めて、定期的にPDCAを行い、アップデートし、可能であれば外部の有識者やコンサルタントを入れることで透明性を確保することも検討すべきである。 本稿では、様々な基準や企業の社会的責任という観点と生物多様性の関係を考えてみた。既にいくつかは取り組んでいる企業も多いと思う。その中で、新しく生物多様性という観点を入れるだけで、ステークホルダー全体への企業イメージの向上、ひいては企業価値が向上していくと筆者は考える。森林・林業・木材産業は一つの分かりやすい例として前編で取り上げたが、企業が森林を保有し、利活用あるいは保護するという活動でも生物多様性の保全に大きく貢献できる。日本の森林は、その多くが収穫時期が来ているものの放置され、手入れがされていないといった問題点は何年も前から指摘されている。そのような放置林を利活用するアイディアを他産業の企業が持ち寄ることで、生物多様性の保護と林業の問題解決の両方を満たすことができる。 日本は、世界でも例を見ないほど、一つの国に様々な生物種が存在する貴重な国である。日本企業としては、自国の豊かな自然を活かせることは、一つの大きなアドバンテージになる。21世紀は間違いなく気候変動への対策が最重要となる中で、企業活動は温室効果ガス削減だけではなく、より高い視点から、生物多様性の保護を含めた持続的な事業活動へ変化していくことに対応する必要がある。 以上 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 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07/01 09:30
【週間ランキング】日本株の値上がり/値下がり銘柄は?(6月第4週)
※画像はイメージです。 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(上位) 2025年6月第4週(2025年6月20日~6月27日) 2025年6月月間(2025年5月30日~6月27日) 2025年年間(2024年12月31日~2025年6月27日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年6月27日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(下位) 2025年6月第4週(2025年6月20日~6月27日) 2025年6月月間(2025年5月30日~6月27日) 2025年年間(2024年12月31日~2025年6月27日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年6月27日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 <参考>今週の日本株式市場パフォーマンス 主要指数 TOPIX: 東証33業種 (注)業種分類は東証33業種ベース。直近値は2025年6月27日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/01 08:16
【野村の朝解説】S&P500とナスダックが連日最高値を更新(7/1)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 30日の米国株式市場で主要3指数は終日底堅く推移し、終盤にかけて上げ幅を拡大させる展開となりました。FRBに対する利下げ再開観測が相場を支える中、NYダウとS&P500は3日続伸、ナスダック総合は6日続伸し、S&P500とナスダック総合は2日連続で史上最高値を更新しました。トランプ大統領が打ち切りを表明したカナダとの通商協議を巡り、両国が交渉を再開し7月21日までの合意を目指すことを発表、関税政策を巡る先行き懸念が後退したことも投資家心理を支えました。米10年国債利回りが低下する中、米ドル安圧力も続き、米ドル円は144円前後で小動きとなりました。 相場の注目点 独立記念日の祝日のため、米国株式市場は3日(木)が短縮取引、4日(金)は休場となります。今週は6月の雇用統計を筆頭に、5月の貿易統計や製造業受注、6月のISM製造業・サービス業景気指数など、米国の重要指標の発表が多く予定されます。先週は弱い経済指標がFRBの早期利下げ観測を高めることで、かえって株価にはプラスに働く結果となりましたが、7月の利下げ確率は2割程度、9月の利下げ確率はすでに9割を超えています。今週も「悪いニュースは良いニュース」になるのか、利下げ観測がどこまで強まるのかが焦点となります。また、通商協議に関しては、相互関税のうち上乗せ部分の一時適用停止の期限が7月9日に迫る中、トランプ大統領が7月9日からの関税引き上げの意向を示す一方、ベッセント財務長官は9月1日までの期限延長を示唆しています。猶予措置は延長される公算が大きいものの、情報が錯そうする中で目先は不確実性が残りそうです。減税法案については米議会上院での調整が大詰めを迎え、近く修正案を採決する見通しです。トランプ大統領が目指す7月4日までの法案成立のためには、上院が修正案を可決後、期限内に下院が同案を再可決する必要があり、財政規律重視派と景気配慮重視派が期限までに折り合いをつけられるか注目されます。 (野村證券 投資情報部 引網 喬子) (注)データは日本時間2025年7月1日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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06/30 16:42
【野村の夕解説】米国ハイテク株高が追い風 日経平均は5営業日続伸(6/30)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 27日の米国株は、米国と主要国との間での通商合意の進展期待が広がり、ハイテク株を中心に上昇しました。また30日寄り付き前には日本の5月鉱工業生産指数が公表され、生産指数は前月比+0.5%と、2ヶ月ぶりの上昇となりました。これらを受け本日の日経平均株価は、前営業日比400円高の40,550円で始まり、値がさの半導体関連株が上昇し一時701円高と、取引時間中では2024年7月以来の水準を回復しました。一方、29日にトランプ大統領が、日米の自動車貿易に改めて不満を表明したことを受け、自動車関連の株は軟調な推移となりました。後場には、日米金利差縮小の思惑が広がったことで外国為替市場では一時143.80円台前半と円高へ進行し株価の重石となりました。引けにかけ上げ幅は縮小したものの、大引けは前営業日336円高の40,487円と、5営業日続伸で取引を終えました。個別株ではソフトバンクグループが前日比+4.31%となり、1銘柄で日経平均株価を86円押し上げました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 1日は日本の日銀短観(6月調査)が発表されます。景気動向を予想する上で最重要な指標であり、企業の設備投資に対する積極姿勢に変化がないかが注目されます。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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06/30 09:30
【#防衛】AI抽出15銘柄/日清紡、日油、トクヤマなど
NATO首脳会議、2035年までに国防費GDP比5%を目標に イスラエルによるイラン攻撃を受け、金融市場では中東情勢を巡る地政学リスクが意識されました。また、NATO(北大西洋条約機構)は、6月25日にオランダ・ハーグで開催した首脳会議において、加盟国の国防費支出に関する新たな目標を決定しました。2035年までに、各加盟国がGDP(国内総生産)の5%を国防費や関連投資に充てる方針です。こうした動きを受けて、防衛関連株への関心が金融市場で高まる可能性があります。AI「xenoBrain」は、「世界防衛関係費金額増加」が他のシナリオにも波及する可能性を考慮し、影響が及ぶ可能性のある15銘柄を選出しました。 ※ xenoBrain 業績シナリオの読み方 (注1)本分析結果は、株式会社xenodata lab.が開発・運営する経済予測専門のクラウドサービス『xenoBrain』を通じて情報を抽出したものです。『xenoBrain』は業界専門誌や有力な経済紙、公開されている統計データ、有価証券報告書等の開示資料、及び、xenodata lab.のアナリストリサーチをデータソースとして、独自のアルゴリズムを通じて自動で出力された財務データに関する予測結果であり、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。(注2)『xenoBrain』とは、ニュース、統計データ、信用調査報告書、開示資料等、様々な経済データを独自のAI(自然言語処理、ディープラーニング等)により解析し、企業の業績、業界の動向、株式相場やコモディティ相場など、様々な経済予測を提供する、企業向け分析プラットフォームです。(注3)母集団はTOPIX500採用銘柄。xenoBrainのデータは2025年6月24日時点。(注4)画像はイメージ。(出所)xenoBrainより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点