建築は採算悪化懸念、土木は限定的

 2021年以降、鉄資材を中心に建設資材の価格は上昇傾向が続いている。ウクライナ紛争を契機に原料費は一層高騰している状況であり、建設資材の価格は一段の上昇が見込まれる。また、建築では業界全体で工事量の増加が今後見込まれ、労働需給のひっ迫により労務費が上昇するリスクもある。一段のコスト上昇が見込まれる中で民間向けが主体の建築では価格転嫁は容易ではなく、採算性の低下が懸念される。一方、官需向けが主体の土木では法制度のサポートにより採算は維持されよう。

 国や自治体、高速道路会社からの発注は最低入札制限価格が設定されるケースも多い。また工事材料の価格変動に応じ請負金額を見直す物価スライド条項が契約に盛り込まれるケースも多いだろう。加えて、近年では労務費が上昇した際には、政府が公共事業における契約額を積算するための設計労務単価の引き上げを同時に実施している。23.3期も全国全職種単純平均で前期比2.5%引き上げられており、コストアップに伴う採算面への悪影響は限定的だろう。

 建築におけるコスト上昇による悪影響は大きく3つに分かれよう。まず、①大型案件のように受注から着工までの時間が長い案件では、発注者との契約から資材の手配までのタイムラグの中で外注費が受注時の見積もり以上に上昇し、採算が悪化するリスクがある。また、②今後は労務費の緩やかな上昇も見込まれる中で工事進行中に追加の労務投入が発生した際の費用拡大や、③外注費の上昇を価格転嫁できず受注時の粗利率が低下することも、業績へのリスク要因と考える。①や③のケースのように着工前に工事の採算が悪化した場合には、工事の進捗に合わせて採算の悪化が徐々に業績に顕在化すると考える。一方で、労務費の上昇による②のケースでは採算の悪化がタイムラグなしに顕在化する可能性に注意したい。資材の場合は工事進行中に大きく投入量が変化することは少ないと考えるが、労務については工程遅延などにより追加の労務投入が発生するケースがあろう。そのため、労務費の上昇は追加費用の増加を通して資材費以上に悪影響が大きくなり、またすぐに業績に影響する可能性があるため一層注意したい。

建築粗利率1 ~ 2 % pt 押し下げリスク

 ゼネコンにおける工事原価は外注費が大部分を占めており、外注費は労務費や資材費、機械費などで構成される。例えば、建築では外注費のうち労務費が4~5割程度、資材費が3~4割程度を占めると見られる。資材費のうち、鉄骨や鉄筋などの鉄関連の資材が3割程度、生コンクリートなどのセメント関連の資材が15%程度を占めていると推測される。

 仮に資材費が1割程度上昇した場合、工事原価は3%程度上昇すると試算される。しかし、実際には、ゼネコンは鉄筋工、コンクリート型枠工などの協力会社と、資材費と労務費とをセットにして価格等を交渉し契約する傾向にある。そのため、資材費や労務費がそれぞれ上昇した局面で実際に工事原価がどの程度上昇したかを推察するのは難しい。大きなトレンドで考えると足元の局面は資材費と労務費が両方上昇した2006~07年度や、18~19年度と似た局面と考えており、該当時期の粗利率の変動幅を踏まえると、建築の粗利率を1~2% pt(ポイント)程度押し下げる可能性はあろう。ゼネコンの建築粗利率が1桁後半であることを考慮すると、コストアップの影響が小さいとは言えないだろう。

 ゼネコンが契約単価にコスト上昇分を上乗せできていれば、工事の着工単価(工事費予定額を着工床面積で除した値)は上昇しているはずだが、4月28日に国土交通省が発表した3月の建築着工単価は、21.2万円と前月の21.6万円から低下し、12カ月移動平均の21.5万円をやや下回る水準だった。21年度通期で見ると建築着工単価は21.5万円と、20年度の21.4万円から上昇したが上昇幅は小幅だった。

 大手50社の建築受注は21年度では前年度比8%増と、事務所や製造業向けが牽引した。一方で、各社が売上高の早期回復を目指す中で、大型案件を中心に激しい価格競争が続いたことにより、価格転嫁が進まなかったと見られる。22年度の建築受注は事務所向けでは減少を見込むが、製造業やリオープン関連の商業施設向けでは増加し同2%増と小幅だが増加が続くと考える。大手ゼネコンの中には23.3期以降に竣工を迎える再開発案件を抱え受注残高が高水準な企業もあり、施工力に制限がある中で競争が緩和する可能性もあろう。ゼネコン各社は利益維持に向け、一層の選別受注を行い受注単価の引き上げと工事量の確保を両立することや、発注者との契約から協力会社との契約までのタイムラグを短くすることなどが求められよう。

(エクイティ・リサーチ部 濱川 友吾)

※野村週報2022年5月16日号「産業界」より

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