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欧米における営農型太陽光発電の動向

執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部   シニアフェロー 石井 良一(2025年5月20日) はじめに  営農型太陽光発電とは、一時転用許可を受け、農地に簡易な構造でかつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光を電気に変換する設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う取組である。2013年3月に農林水産省が通知として「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」を発出して以降、その許可件数は増加している。2018年5月には、担い手が下部の農地で営農する場合等について、一時転用期間をそれまでの3年以内から10年以内に延長した。図表1に示すように、2022年度末までで、全国で5,341件、下部農地面積1,209haになっている。件数は増えているものの、下部農地面積は平均23a/件、発電出力はほとんどが数十KWと、10数年経過しても未だ小規模に留まっている。また、2024年8月には、経済産業省は農地法違反で342件20事業者に対し、FIT・FIP交付金を停止するなど、適切に営農事業、発電事業が行われていない事例も見られる。[1] 図表1 我が国における営農型太陽光発電設備の許可件数等の推移 (出所)農林水産省(2025.4)「営農型太陽光発電について」 2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」[2]では、再エネ電力の中で太陽光発電が主要電源と位置付けられており、太陽光発電については2022年度における全体電源の9%のシェアを2040年度には23~29%まで高める計画となっている。太陽光発電の今後の発電適地は限定的であり、営農型太陽光発電が期待されているもののスケール化には至っていないのが現状である。 海外でも気候変動対策として太陽光発電の拡大が期待されている中で、欧米においては近年急速に規模の大きな営農型太陽光発電が増加している。本論では、既存公開資料を基に、欧米の最近の動向を概観し、我が国への示唆をまとめたい。なお、営農型太陽光発電の名称については、一般的に、欧米ではAgrisolar(アグリソーラー)、Agrivoltaics(アグリボルタイクス)を使用している。 第1章 欧州における営農型太陽光発電の状況  1. 発展の経緯  営農型太陽光発電のコンセプトは1981年にドイツの物理学者であり太陽光発電技術のパイオニアであるAdolf Goetzberger氏が提唱したのが最初と言われている。[3] 2004年にドイツで最初のシステムが実証され、2011年にドイツで規模の大きなシステムが稼働した。その後、太陽光発電への期待が高まるとともに、欧州各国で営農型太陽光発電の設置が相次ぎ、施設あたりの規模も次第に拡大しつつある。欧州全体に拡大しているが、発電出力20MWを超えるような大規模なものはスペイン、イタリア、フランスに多い。  営農型太陽光発電の近年の急速な拡大は、欧州を取り巻く気候変動、エネルギー政策と強く関連している。この数年、欧州は何度も深刻な熱波に見舞われ、各地でこれまでにない健康被害、干ばつを記録している。一方、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するロシアからの石油・天然ガスの輸入削減、エネルギー価格の上昇は、待ったなしで石油エネルギーから再生可能エネルギーへの移行を迫っている。 2022年5月に、欧州委員会は「REPowerEU Plan」を発表し、EUは太陽光発電全体を2021年の162GWから2025年には380GWに、2030年には750GWまで増加させるとした。熱波をいくらかでも遮り農業生産を持続的にするとともに、政策に対応し太陽光発電を増加させることが営農型太陽光発電の拡大を後押ししているのである。 図表2 欧州における営農型太陽光発電の分布(2024年) (出所)Solar Power Europe(2024)”Agrisolar Handbook” https://www.solarpowereurope.org/insights/thematic-reports/agrisolar-handbook-1 2. 法制度・支援制度 EUは、加盟国27カ国で共通して講じられる農業政策であるEU共通農業政策(CAP)を策定している。EU予算を財源としてEU全体で運営されている。それは、(ア)農業者の所得を保障するための「価格・所得政策」、(イ)各加盟国が農業部門の構造改革、農業環境施策等の農村振興プログラムを実施する「農村振興政策」の二本柱からなっている。2023年1月に発効した改正CAP(2023-2027)は、より環境に優しく、より公平でより持続可能な農業の実践というコンセプトに基づいている。CAPに基づき、国レベルで戦略計画を策定しているが、営農型太陽光発電については、ドイツ、イタリア、オランダ、スロベニアの4ヶ国の戦略計画で推進することを位置付けている。[4]  営農型太陽光発電をきちんと法令に位置付けた国はまだ多くはない。フランスでは、2023年3月に「再生可能エネルギー生産加速法」[5]を施行した。その中で、農地での地上設置型太陽光発電を禁止し、営農型太陽光発電を定義し、農林業や牧畜業と両立可能な再生可能エネルギー生産を推進する方向性を明確に打ち出した。2024年4月に法令第2024-318号[6]を発表し、営農型太陽光発電の開発および規制を明らかにした。法令は、土地の農業利用を保護することに特に重点を置いており、最長40年間の許可を与える代わりに、収量は近隣と比較して90%以上を確保すること、架台の設置によって耕作できない面積は総面積の10%以内にすること、10 MWを超える設置の場合は遮光率[7]が40%未満であること、架台の設置の高さと間隔は通常の農業活動を可能にする必要があること、稼働前の事前検査を受けること、農地への原状回復が可能なこと、事前に供託金の納付を求め、違反の場合、原状回復費用に充当することとしている。 ドイツでは、「再生可能エネルギー法」(EEG2023)において、通常の太陽光、陸上風力、洋上風力、バイオマスと並んで、営農型太陽光発電の入札枠[8]が設けられている。2022年2月に、経済・気候保護省、環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省、食料・農業省の3省が「太陽光発電拡大の方策についての3省による合意事項」を発表し、全ての農地での営農型太陽光発電を支援することとし、発電による土地の農業利用への影響が15%までの場合、CAPの支援を受けることも可能とした。ドイツでは、営農型太陽光発電システムの規格であるDIN SPEC91434で、枠組みと支援制度の概要を公表している。農業収量については非設置エリアと比較して66%以上にするという評価基準がある。 イタリアでは、2024年5月に「農地での地上設置型ソーラーパネルを禁じる緊急政令」を発布した。地上2.1メートル以上の高さを持つ営農型太陽光発電は除外している。すなわち、農地においては、営農型太陽光発電以外は設置できないこととした。 3. 営農型太陽光発電の特徴 ⑴ 営農型太陽光発電のメリット  欧州では、営農型太陽光発電のメリットは次のように捉えられている。[9] このうち、③農作物の保護、④持続可能な農業方法の支援、⑤気候変動への適応力向上、⑦先進的な再生可能エネルギー技術へのアクセスについては、我が国ではまだ強調されていないが、近年長期間の猛暑を記録しており、営農型太陽光発電のメリットとして再認識する必要がある。 ①農村経済に貢献 雇用を創出し、地域の収入や税収を生み出し、エネルギーの安全保障と農家や土地所有者に多様な収入源を提供する。 ②再生可能エネルギーの自家発電 農家は自分たちで再生可能エネルギーを生成することで、エネルギーコストを削減し、グローバル市場の混乱によって著しく上昇した不安定なエネルギー価格に対する脆弱性を軽減できる。 ③農作物の保護 干ばつ、直射日光、洪水、雹などの厳しい気象から農作物を保護する。 ④持続可能な農業方法の支援 水管理の改善を通じて再生可能な農業などの持続可能な農業方法を支援できる。具体的には、蒸発散量の低下により灌漑目的の水使用を削減し、太陽光パネルの下での温度低下により農作物の水需要を減少させること、雨水収集システムを設置して雨水の再利用を行うなどである。 ⑤気候変動への適応力向上 太陽光発電設備の設置により、農作物の気候変動による物理的リスク(気温上昇、洪水、極端な気象イベント)に対する耐性を強化できる。 ⑥土地の二重利用 農業とエネルギー生産の両方のために土地を二重利用することを可能にし、土地の効率を最大化し、農作物生産を犠牲にすることなく利用可能な資源をより良く活用する。 ⑦先進的な再生可能エネルギー技術へのアクセス 農家に現代的な再生可能エネルギー技術へのアクセスを提供し、スマート農業ツール、スマート灌漑システム、エネルギー効率の高いシステムを活用することで、生産性をさらに向上させることができる。 ⑵ 営農型太陽光発電のタイプ 欧州においては、一般的に、図表3に示す10タイプがある。生物多様性タイプや牧草発電タイプなど我が国よりも多様な活用がされている。 図表3 営農型太陽光発電ビジネスのタイプ (出所)Solar Power Europe(2024)”Agrisolar Handbook”より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 ⑶ ビジネスモデル 営農と発電事業を両立させるために、図表4に示すようにいくつかのビジネスモデルが存在する。農家の同意の下で発電事業者がソーラーシステムを所有運営するモデルが一般的である。この場合は、農地を所有する農家は、その農地の一部を発電事業者に賃貸し、具体的な合意に基づいて農業活動を行う。農地所有者と農家が別の法人である場合、農地所有者は土地を賃貸し、農家は発電事業者との具体的な合意に基づいて農業活動を行う。 図表4 営農型太陽光発電のビジネスモデル (出所)Solar Power Europe(2024)”Agrisolar Handbook”より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 4. 注目すべき事例 欧州においては、図表5に示すように、近年、農地面積数十~数百ha、発電出力20MW以上の大規模な営農型太陽光発電が増加している。特に、2022年5月の欧州委員会「REPowerEU Plan」発表以降の事例が目立っている。事業主体のほとんどは大手の再生可能エネルギー発電会社であり、農家から農地をリースし、共同で事業を行っている。 図表5 欧州における大規模営農型太陽光発電の事例(発電出力20MW以上) (出所)SolarPower Europe “Agrisolar Digital Map” https://agrisolareurope.org/map/ より作成 、このうち、我が国でも参考になる事例を紹介する。 ⑴ 羊の放牧 大規模な営農型太陽光発電では、羊の放牧をしている事例が多い。欧州には、もともと耕作に向いていなく、羊の放牧をして、羊毛、チーズ、肉などを生産している地域も多い。発電事業者にとっては大規模な面積を確保できることが最大のメリットである。羊はおとなしく草を食み、手間があまりかからなく、設備などへの損傷が少ないことも牛や馬と比較してのメリットである。一方、農家にとっても、経済的なメリットの他、①日陰により羊に休息や繁殖の場を与えることができる、②水分の蒸発を抑え、土壌の乾燥を抑えることができる、というメリットがある。 図表6 営農型太陽光発電での羊の放牧のイメージ (出所)Getty Images ⑵ ブドウ栽培 近年の猛暑は欧州のぶどうの生産に大きな影響を与えている。2023年、フランスのボルドーでは「ヒートドーム」現象が発生し、一部の地域で気温が40度を超え、猛暑と洪水が重なり、真菌(カビ)による病気が大発生し、ブドウ畑全体の約90%が被害を受けた。 図表7 営農型太陽光発電でのブドウ生産のイメージ (出所)Getty Images こうした中で、営農型太陽光発電下でブドウを栽培することが始まっている。農家にとっては、経済的なメリットの他、①水分の蒸発を抑え、散水を抑えることができる、②適度な日陰が生まれ、熱波をいくらかでも和らげ、ブドウの収穫時期を遅らせ成熟度を上げることができる、というメリットがある。 実際、イタリアのワインメーカー、Svolta Srl社が自社のブドウ畑に営農型太陽光発電設備を導入した結果、大幅にワインの品質が向上し、高品質のワインが生産できたとのことである。[10]   第2章 米国における営農型太陽光発電の状況  1. 発展の経緯 米国においては、NREL(国立再生可能エネルギー研究所)が2010年から営農型太陽光発電に関するフィールドリサーチを行っており、2015年以降、全米各地の研究サイトで研究を行ってきた。現在でも営農型太陽光発電に関する研究開発、情報発信、情報交流の全米のハブとなっている。[11] 営農型太陽光発電の本格的な商業展開は2021年以降のことである。2015年以降、太陽光発電は拡大をしていたが、2020年で米国全体の電力構成のわずか約2%に過ぎなかった。バイデン前大統領は、2021年1月、大統領就任後、「パリ協定への復帰」、「2050年までにGHG排出量ネットゼロ」など気候変動対策に積極的に取り組むことを発表した。2021年11月には、「温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための長期戦略」[12]を発表し、「インフラ投資・雇用法」[13]を制定した。前者は、電力の脱炭素化、運輸部門でのクリーン燃料への転換、省エネの推進などを掲げ、後者はそのために5年間で5,500億ドルを支出し、技術の実用化、雇用の拡大を進めるものであった。。さらに、2022年8月には「インフレ削減法」[14]を制定し、気候変動対策に今後10年間で3,910億ドルを支出するとした。 この結果、電力構成に大きな変化が生じた。化石燃料の割合が下がり、再生可能エネルギーの割合が増加している。2023年では太陽光発電は米国全体の電力構成の約4%と2020年から倍増した。営農型太陽光発電についても2021年以降、大規模な事例が相次ぎ、全米各地に広がっている。(図表8参照) 2025年1月、 トランプ大統領は大統領就任後すぐに前政権の気候変動対策を大幅に転換し、「パリ協定からの離脱」、「化石燃料を中心とする国産のエネルギー資源の開発の加速化」などを表明した。しかしながら、太陽光パネルの米国内での生産能力の増加もあり、米国エネルギー環境局(EIA)によると、2050年には太陽光発電が石油・天然ガスをしのぐ主要電源になると予測[15]しており、土地を有効に活用する営農型太陽光発電への期待はますます高まるものと推察される。 図表8 米国における大規模営農型太陽光発電の分布(発電出力10MW以上:2024年) 出所)National Renewable Energy Laboratory (NREL)(2025)InSPIRE “Agrivoltaics Map” https://openei.org/wiki/InSPIRE/Agrivoltaics_Map 2. 法制度・支援制度 米国における営農型太陽光発電に関する法制度や支援制度は、州や地域によって大きく異なり、連邦政府の明確な規定は存在しない。州の制度の一例として、マサチューセッツ州の例を紹介する。ここでは、2018年に州エネルギー資源省は、「ソーラー・マサチューセッツ・リニューアブル・ターゲット(SMART)プログラム」を開始した。その中で、営農型太陽光発電を位置づけ、規定に合うものに対して、財政的インセンティブを与えている。主な規定は、①最大発電出力は5MW未満、②パネルの高さは固定式で約2.4m以上、追尾式で約3m以上、③遮光率は50%未満、④20年間の継続的営農の実施、⑤年次報告の義務(生産性、農作物管理)であり、それを満たしたものは0.06$/kwhを追加で得ることができるといった内容である。 3. 営農型太陽光発電の特徴 ⑴ 営農型太陽光発電のメリット 営農型太陽光発電のメリット、トレードオフ項目については、図表9のように整理されている。米国においても、植物や家畜の生態面、水管理のメリットが強調されている。 図表9 営農型太陽光発電のメリット (出所)”Agrivoltaics Basics”  https://www.nrel.gov/docs/fy25osti/91638.pdf ⑵ 営農型太陽光発電のタイプ 欧州と同様に、農作物生産、家畜生産、植生管理を通じた生態系サービスの提供、及び ソーラーグリーンハウスがある。これらのタイプは、特定の場所で複数の活動が同時に行われることがあり、同じ地域内で異なる季節に実施されることもある。 図表10 営農型太陽光発電のタイプ (出所)the National Renewable Energy Laboratory (NREL)” The 5 Cs of Agrivoltaic Success Factors in the United States: Lessons From the InSPIRE Research Study”  https://www.nrel.gov/docs/fy22osti/83566.pdf 4. 注目すべき事例 2025年4月現在、営農型太陽光発電は、全米で599サイト、発電出力10,310MW(平均17MW/件)、農地面積26,179ha(平均44ha/件)となっている。ほとんど発電事業者が事業主体である。1件あたりの農地面積は我が国の0.23haの約200倍と大規模である。 発電出力150MW以上の大規模営農型太陽光発電は、図表11に示すとおりであり、羊の放牧の事例が多い。テキサス・ソーラー・シープ社のように、各地の営農型太陽光発電事業者に羊を貸し出すビジネスまで登場している。 図表11 アメリカにおける大規模営農型太陽光発電の事例(発電出力150MW以上) (出所)National Renewable Energy Laboratory (NREL)(2025)InSPIRE “Agrivoltaics Map” より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 おわりに 2020年代に欧米で急速に拡大している営農型太陽光発電の現状を概観したが、我が国への示唆をまとめて本論を締めくくりたい。我が国においては、太陽光発電の拡大が求められているものの、もはや適切な土地はあまりなく、丘陵地における発電所の災害の危険性への懸念、平地における野立て発電所の景観性などからその拡大に対する国民の理解は高まっていない。実際に、非住宅設置の新規の太陽光発電量は2012年7月のFIT開始後の2014年度の837万KWをピークに、年々減少し、2023年度は175万KWに留まっている。エネルギー基本計画に基づき太陽光発電を拡大し、2050年カーボンニュートラルの実現を達成するためには、建築物の壁面、道路などのインフラ空間、農地などの活用が真剣に検討されるべき状況になっている。 農業生産者にとって、営農型太陽光発電は経営を安定させるだけでなく、欧米の事例で見たように、猛暑からの農作物や家畜の保護、農作物の水需要の削減、発電した電力を活用したスマート農業への展開などメリットも大きい。我が国において、今後、飛躍的に営農型太陽光発電を拡大するために望まれる事項は次の通りである。 ⑴ 営農型太陽光発電の法律への位置づけ 営農型太陽光発電の設置に関しては、2024年4月にそれまで通知であった一時転用許可基準等を農地法施行規則第30条に定めた所である。今後、フランスの「再生可能エネルギー生産加速法」 での取り扱いのように、法律の中で営農型太陽光発電の推進を位置付けることが検討される。また、フランスやイタリアのように、農地での野立ての太陽光発電は、農業振興地域に指定されている農地を転用しての建設も含めて、一切禁止することも検討すべきである。法的位置づけをしっかりすることで、推進する政策や規制及び設置条件をより明確にすることができる。 ⑵ 営農型太陽光発電に関するプラットホームの形成 米国においては、エネルギー省に属するNREL(国立再生可能エネルギー研究所)が研究開発、情報発信、情報交流の全米のハブとなっている。我が国においても、農林水産省と経済産業省が連携し、我が国における営農型太陽光発電に関するプラットホーム(民間企業、研究機関、農業者などが連携し、 営農型太陽光発電の普及を加速させるための場)を構築することが望まれる。そのハブとして全国に研究センターや農場等を有している農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)が担うことが期待される。 ⑶ 農作物の避熱効果に関する実証研究の推進 現在の営農型太陽光発電の下部農地での栽培作物は、さかき、しきみ、みょうが、ふき、うど、キノコ類などの日陰で手間をかけずに育つ陰性作物が約5割を占めている。決して否定するものではないが、営農と発電の両立という趣旨からするとそれが多くを占めるのは好ましくはないだろう。 欧米では、太陽光パネルの遮光効果が近年の熱波から農作物や家畜を守るという認識が共有されている。2024年の我が国の夏の平均気温は過去最高を記録した[16]。コメ、豆類、イチゴ、トマト、果樹、花卉等に広範な影響が報告されている。[17] 農研機構等がリードし、各地の農場や各道府県の農業試験場などで営農型太陽光発電による農作物の避熱効果の実証を進めることが期待される。 ⑷ モデルプロジェクトの組成 大規模営農型太陽光発電の普及にあたっては、農林水産省と経済産業省が協力し、公募で次世代営農型太陽光発電プロジェクトを募ったらどうであろうか。先駆的事例として、植物工場の黎明期に両省がワーキンググループを設置し検討を進め、農林水産省が主導し、2013年度より全国10箇所で自治体、生産者、実需者等がコンソーシアムを形成し、次世代施設園芸拠点の整備を進めたことが参考となる。その後の植物工場の大規模化の契機になった。 我が国においても、営農の継続と再生可能エネルギーの拡大を図り、生産者の所得向上にも寄与する営農型太陽光発電の拡大をおおいに期待している。 ⑸ わかりやすい名称の検討 営農型太陽光発電の名称について、一般的に、欧米ではAgrisolar(アグリソーラー)、Agrivoltaics(アグリボルタイクス)を使用している。「営農型太陽光発電」という名称は、太陽光発電の1形態として営農型があるというような意味と捉えられやすく、営農と発電を両立させるという本来の意義が伝わりにくい。特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所は、 Solar Power Europe(2023)「Agrisolar Best Practice Guidelines」を翻訳するにあたって、「営農ソーラー」を使用している。愛称でもいいが、「営農ソーラー」というようなわかりやすい名称の使用を官民で検討してほしい。 (参考文献) AgriSolar Clearinghouse(2025)”Best Practices in AGRISOLAR” Solar Power Europe(2024)”Agrisolar Handbook” Solar Power Europe(2023)「営農ソーラーベストプラクティスガイドライン第2版 日本語版」 U.S. Department of Agriculture(2024)”Trends, Insights, and Future Prospects for Production in Controlled Environment Agriculture and Agrivoltaics Systems” [1]  https://www.meti.go.jp/press/2024/08/20240805002/20240805002.html [2]  https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218001/20250218001-1.pdf [3]  日本では長島彬氏が2003年末にソーラーシェアリングとして発案し、2009年に自ら実証実験農場を設け、研究を重ね、2015年9月に「日本を変える、世界を変える!「ソーラーシェアリングのすすめ」」を出版する等、全国への普及に努めている。 [4]  Solar Power Europe(2023)「営農型太陽光発電ベストプラクティスガイドライン第2版 日本語版」(特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所訳) [5]  JETRO(2023)「フランス、再生可能エネルギー生産加速法を施行」2050年までに、太陽光発電の発電容量を100ギガワット(GW)超まで増やす目標を設定。https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/b1b61052873729b0.html [6]   Décret NO.2024-318  https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000049386027 [7]  農地に対する架台の最大投影面積 [8]  入札制度とは、特定の発電容量に対して、複数の事業者が価格を提示し、最低価格を提示した事業者が選ばれる制度。発電方式ごとに増設目標枠が設定されている。 [9]  Solar Power Europe(2024)”Agrisolar Handbook” [10]  PV magazine (September 18, 2024)” Agrivoltaics postpone harvest, improve wine quality”  https://www.pv-magazine.com/2024/09/18/agrivoltaics-postpone-harvest-improve-wine-quality/ [11]  地域経済とエコシステムと統合された革新的太陽光発電の実践InSPIREホームページ  https://openei.org/wiki/InSPIRE [12]  “Pathways to Ne-Zero Greenhouse Gas Emissions by 2050” [13]  “Infrastructure Investment and Jobs Act” [14]  “Inflation Reduction Act” [15]   https://www.eia.gov/outlooks/aeo/pdf/AEO2023_Release_Presentation.pdf [16]  気象庁によると、2024年夏(6〜8月)の日本の平均気温の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差は+1.76℃で、1898年の統計開始以降、2023年と並び最も高い値となった。日本の夏(6〜8月)平均気温は、様々な変動を繰り返しながら、長期的には100年あたり1.31℃の割合で上昇している。 [17]  農林水産省「令和6年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった適応策等の状況レポート」https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/report-76.pdf ディスクレイマー  本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。  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