筆者は「フード&アグリテック」を九つのサブセクターに区分けしているが、今回は「自動収穫ロボット」の市場動向と将来展望をお伝えしたい。なお、ここでいう自動収穫ロボットとは、全体に占める収穫作業の割合が特に大きく、潜在需要が旺盛な「青果物」分野に限定している。

持続可能な農業に不可欠

 国内の農業従事者が断続的に減少している中、野菜と果樹の青果物を対象とした自動収穫ロボットが担う役割とその潜在市場は極めて大きいものと考えている。実際、青果物生産の全作業時間に占める収穫作業(調整作業を含む)の割合は大きく、品目や地域・栽培方法などで異なるが、一部出荷作業も含めてイチゴやキュウリで約5割、アスパラガスやピーマンで約6割とも言われている。また、自動収穫ロボットが将来的に提供する付加機能と見込まれる「除草」や「葉かき」の作業時間を加えると、提供する価値は膨大なものとなる。日本農業を持続可能な産業にするために必要不可欠な農業機械である。

多岐にわたる技術領域

 日本を含む世界中で旺盛な需要があるが、現在、自動収穫ロボットは“プレ”上市(発売)期にある。自動収穫ロボットは、主に、収穫期にある青果物を判断する画像センシングの技術の他、収穫物を傷つけないようにソフトにつかむロボットアーム(ハンド)の技術、そして、圃場や園芸施設内を自由自在に動き回る自律走行の三つの複合技術で成り立つ。また、画像センシング一つを取ってみても、朝と夕方では作物の見え方が異なる。2010年代前半に一部の企業が製品を上市したことがあるが、技術や性能、ビジネスモデルなどの各点で実用レベルには程遠く、普及することはなかった。

 しかし、この5~10年で農業を取り巻く環境も大きく変わり、10年代の4Gの普及とともに深層学習で利用されるデータ量が増えはじめ、15年以降にセンサーや人工知能、ロボティクスの各技術が開花し始めた。その結果、18年ごろから国内外の一部のスタートアップが製品のプロトタイプを開発し、およそ1年前から地域を絞った実証的な上市が各国で始まったところである。

スタートアップが牽引

 開発は、世界的にみるとスタートアップが牽引している。代表的な海外スタートアップは、19年に世界で初めて2カ国以上でリンゴの自動収穫ロボットをプレ上市した米国のアバンダント・ロボティクス社や、世界最短の「5秒に一粒を収穫可能」なイチゴの自動収穫ロボットを開発したベルギーのオクティニオン、軍事技術から派生した人工知能やソフトウエアを搭載したドローンによる自動飛行型のリンゴ収穫ロボットを開発したイスラエルのテヴェル・エアロボティクスなどがある。特に、オクティニオンの自動収穫ロボットは、収穫だけでなく、その後の選果・測定・包装の自動化を一台で行い、労働力の代替範囲は突出している。

 また、葉かきや除草に関する自動走行ロボットでは、人工知能を駆使してレタスの“間引き”とピンポイント除草を行うロボットを開発した米国のブルーリバーテクノロジーや、園芸施設のコンピューター制御システムで圧倒的な世界シェアを持つオランダのプリヴァ社が開発を進めるトマトの葉かきロボットなどに注目が集まっている。国内では、青果物選果施設の国内最大手であるシブヤ精機が、14年に農研機構と開発した高設栽培用のイチゴ自動収穫ロボットを発売した実績を持つ。また、大学による研究開発も進んでおり、宇都宮大学では14年に同大学発スタートアップのアイ・イートを立ち上げ、イチゴ収穫から包装までを行う技術開発を進めている他、信州大学は16年より不二越機械工業と連携して、レタスやキャベツの自動収穫ロボットの開発を行っている。さらに、パナソニックやデンソーなどの大手企業やロボット専業ベンチャーのスキューズなどが、トマトの自動収穫ロボットを開発している。

 このうち、国内で注目する企業は17年に設立されたinahoである。同社はアスパラガスの収穫ロボットを開発したスタートアップであり、19年9月に佐賀県で同ロボットの上市を行っている。

2025年以降に加速的な普及を予測

 自動収穫ロボット市場は、20年代前半から徐々に開花し始め、25年以降、現在のドローン市場と同様に加速的な普及が進むものと予測している。国内市場は20年時点でせいぜい10億円程度と推計しているが、筆者は今後10カ年の年平均成長率(CAGR)を54.1%と予想し、25年に200億円、30年には800億円弱に伸長するものと考えている。

 30年までの対象品目は、野菜では主に植物工場産野菜のレタスやホウレンソウの他、施設園芸や露地野菜のアスパラガス、トマト、ナス、ピーマン、キュウリの7品目が軸になり、これに施設園芸や露地野菜のレタスやホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、ネギ、タマネギを加えた11品目と想定される。果物ではイチゴが他を凌駕する大きな軸になる。その他、リンゴやミカン、ナシ、ブドウ、メロン、モモの7品目が果樹の対象となろう。

 また、市場を牽引する分野は、25年までは植物工場であり、25年以降が施設園芸や露地栽培だと考えている。植物工場では京都市のスプレッドのような先進プレーヤーが既に収穫ロボットを導入しているように、新設工場では今後、自動収穫ロボットを設置・利用する前提の施設設計になることが予想される。そのため、開発メーカーから見ると「製品販売」が大半を占めるものと思われる。

 また、施設園芸や露地栽培は、技術実装がほぼ固まる25年までは「各種サービス」が主体で、それ以降は「製品販売」も増加してくるものと予測している。各種サービスは、ロボットを“貸し出す”サービスの他、メーカーや代理店が農産物を代行で収穫するサービスが主流となろう。これは農業者から見ると、初期費用やメンテナンス費用がかからず、常に最新技術・機能を持つロボットを利用できるメリットがある。同様にメーカー側では、各農業者や品目の栽培・収穫に関するビッグデータが蓄積できるメリットがある。サービス料の計算方法は、面積や収穫高に応じた徴収が想定される。

 筆者は、30年には青果18品目を生産する農業者・法人の5件に1件が、収穫時に自動収穫ロボットを利用しているシーンを想定しており、農業経営の際の“労働力”として、欠かすことができない存在に位置付けられているものと考える。

佐藤 光泰(さとう みつやす)
野村アグリプランニング&アドバイザリー 調査部長 主席研究員
2002年早稲田大学法学部卒業、野村證券(株)に入社、05年 野村リサーチ&アドバイザリー(株)へ出向、10年 野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)へ出向。現在、同社にて、国内外の農と食のリサーチ・コンサルティング業務に従事。
〔専門〕農業経営、農業参入、卸売市場、都市農業、植物工場、スマート農業、フードテック、農食セクターのM&A
〔主な著書〕「2030年のフード&アグリテック~農と食の未来を変える世界の先進ビジネス70」(同文舘出版)など

※「野村のフード&アグリ経営塾」は、8月14日より10日間のシリーズとして配信予定です。 

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